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嫌そうな表情を崩さない穂高さんは、深い深いため息をつく。 「お前に言うことじゃねえよ。誠は家帰ってからな」 「ええっ、不満言われたら俺ショック〜」 「ショックっていうならもっと落ち込んで言え」 「聞いてもないのに落ち込めないよ」 「いつもこんなバカな会話してるんですか………」 俺とするエッチに不満があるのかどうか特に聞いたこともないけど、したくないほど不満があるとは思えない。俺がエッチしよと誘わなくてもする日はするし。 そんなことを思える俺とは別に、意外と常識人な穂高さんは口を挟む。 「つーかお前らここ往来な」 「おーらい?」 「お、う、ら、い。人が行き来してるところだろってこと」 「難しく言わなくてもいいじゃん」 相変わらずの語彙力を発揮した俺に、慣れた穂高さんは付き合ってくれるけど前田さんはどんどん俺を残念な目で見ていく。 「………なんでこんな人なんですか」 「だからお前に言うことじゃねえよ」 「俺は家帰ってから?」 「うるさい」 教えて!なんで俺か、つまり俺の良いところも教えて! エッチしてて不満なことあるなら善処はする。 と言っても俺は痛すぎることは絶対に無理だから要話し合いだけど、穂高さんにゆっくり教え込まれたらなんとかなる気もする。 「俺だって、帰る場所くらい欲しいのに………」 「それならエッチする人じゃなくて、恋したい人探しましょうよ」 「は?」 「体だけより、心が満たされる方がきっと良いです。俺も大概社畜だけど、穂高さんに拾われてからほんと幸せです」 あの時拾われてなかったら俺は今頃消えてた。 それか本格的に体調や精神を崩してたと思う。どっちにしてもこんなに元気に過ごしてない。 「優しくてエッチも上手いなんて理由じゃなくて、この人のそばがあったかいって人探した方がきっと心が満足します」 「ついでに家事が上手いと完璧です」 「あとあと、仕事がホワイト!」 「あんたのいう条件ってめっちゃレベル高くない?」 「それを満たしてる人をみすみす逃した人に言われたくないです」 「やっぱムカつく」 キッと睨まれるけど俺はへらっと笑い返す。 今は俺のもので、これからも俺のもの。 「つーか誠、これに怒ってたんじゃねえの?」 「穂高さんを傷つけるのは許さないけど、傷つける気がないなら別にどうでもいい」 「お前大概酷くね?」 「よく言われる」 その言葉よく言われる。 だけど、欲張って全部手に入れられると思うほど傲慢じゃない。 「なんかあんたって変」 「はい?」 「完全に毒気抜かれた」 「???」 「はああ」 「穂高さん、どぉいうこと?」 「お前と喧嘩すんのはやり辛えってことだろ」 「あれ、会話噛み合ってたよね?」 「歯車はずれていってたけどな」 え、嘘いつの間に? けどまあいいや。前田さんが今になって穂高さんに興味を持つ理由が分かったし。 その理由が社畜ゆえなんて俺には共感しか持てない。 穂高さんに出会う前の俺は癒しに飢えてた。 それをずっと持て余してると思うと、少し可哀想にすら思えてくるのだ。

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