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2-86.
夜ご飯を食べて、俺に少し頑張らせる予定だからか風呂入る?と穂高さんの方から聞いてくれた。
もちろん俺が断るはずがなく、一緒にお風呂に入った。
頭は洗って貰って、体は自分で洗うと言ったのにサービス(?)して洗ってくれた。意地悪されるんじゃないかとびくびくしてたのに、穂高さんはそんなことはしなかった。強いて言うなら、少し伸びてきた下の毛をきれいにしてくれたくらいだ(頼んではいない)。
お風呂上がりにはあっさりしたジュースをくれて、目に見えて甘やかされた自覚はある。自覚はあるけど……
「ほんとにむりって思ったらやめてくれる?」
「当たり前だろ」
「絶対?」
「絶対。いつもちゃんと見てるだろ」
「うぅっ」
「ほら、触ってみ?」
言葉と一緒に俺の手に降ってきたのは穂高さんのものらしいネクタイ。
穂高さんはネクタイを持ちすぎで、俺は全部を把握してないから見たことがある気もするし、ない気もする。
渡されたそれはつるっと柔らかい素材で、結んだとしても解けやすそうだし、生地が硬くて痛いなんてこともなさそうだ。
「ふぁ!?な、なんか俺でも知ってるようなロゴが見えたっ」
「ん、ああ。気にしなくていい。それあんま使ってねえし」
「………いつか買ったリードとかでもいいのに」
「あんなんで縛って擦ったらどうすんだよ」
いやでも、このネクタイ結構いいのじゃない?
穂高さんはこういうのいいもの使ってると思うけどさ、俺が知ってるようなブランドってだけでやばいよ(疎い自覚はある)。
「怪我させるくらいならネクタイ一本伸ばすほうがいい」
「………優しくしてね」
傷つけたい気持ちはないと、それはもう痛いくらいに知ってるから俺は諦めて手を出す。あ、こういう時って後ろ?と俺が手を前に後ろにと動かしてると前でいいと言われ、両手を合わせて穂高さんの前に差し出す。
くる、くると何度か俺の手首に巻かれたそれは思ったよりも早く結ばれた。しかも、なんでかちょうちょ結び。
「?」
「解けやすいだろ」
「???」
「ちゃんと見ててやるけど、どうしても不安になったら少しもがけば解けるだろ」
不安そうな顔をしてたのか、俺を慰めるように優しく笑って大きな手が俺の頭を撫でる。
それが気持ちよくて目を閉じると、俺の頭を撫でていた手が頬を撫でて、ちゅっと唇を奪われた。
「ンッ、ふぁ」
指で頬を撫でながら、深く舌を絡ませる。
穂高さんの背に回そうとした手がくっついてること以外は何もひどいことされてない。
ああ、だめだ。
この人は俺にひどいことしないって、ちゃんと気づいてくれるって分かっちゃってる。
きっとギチギチに、もがいても解けないような結び方だって知ってるだろうにあんな滑りのいいものでちょうちょ結びして、こんなに優しくしてくれる。
それを改めて思い知って、俺は体から力が抜けるのを感じた。
任せて大丈夫。
「んっ、ほだ、かさんっ」
「ん?」
「だいすき」
そう言った俺に少し驚いた顔をした穂高さんは、俺もっていうみたいに優しく笑って、またキスをしてくれた。
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