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2-89.
いつもより早く目が覚めた朝。
まだ起きてない穂高さんが隣に居て、俺はもぞもぞと擦り寄ってすっぽりと収まる。
穂高さんとエッチした割に、体の痛みがほとんどない。
昨日は俺を怖がらせないためかあんまり噛まれなかったからだろうなぁ。
けどあの体位は違う意味で怖い。
気持ちいいだけじゃない。
ぎゅうっと抱きしめられた腕の強さに、包み込まれてるみたいな安心感に、愛されてるのかなぁなんて、なんか、なんかっ!
穂高さんは俺が思ってるより俺のこと大事に、好きでいてくれてるんだなって思うようになったけど!
なんていうかすごい、重い。
嬉しい重みなんだけど。
「百面相してどうした?」
「み、見てたの!?」
「髪、くすぐってえよ」
1人ぶんぶんと頭を振ったりしてたからかくすぐったさで起こしてしまったらしい。
それに怒ることはなく、少し伸びた俺の髪に指を通して髪を落ち着かせてくれる。
「誠」
「はぁい」
「手、見せて」
「手?」
そう言われてもぞもぞと両手を出すと穂高さんは俺の手首をしっかりと見る。
「怪我してねえな。どっか痛いとこある?」
「………心臓」
「は?」
「心臓が鷲掴みにされて、破裂しそぉ」
こうしていつも聞いてくれるの、くすぐったくて嬉しいんだよ。恥ずかしくて嬉しくて、緩んだ顔を隠すために穂高さんの胸に額を擦り付ける。
穂高さんの呆れ切ったため息が聞こえるけど、俺を撫でる手は優しくて、朝からすごく幸せだなあと感じた。
主に心が満たされた週末を終えて会社に出勤すると、久しぶりに挙動不審全開の田中さんに遭遇し、その後は不気味なくらい覇気のない山口さんに遭遇した。
「田中くん」
「すみません!すみませんでした!」
野田さんが心配そうに声をかけると椅子から飛び上がって壁に向かって謝罪した。意味のわからない光景に技術部の全員が首を捻ったけど、それは続いた。ただ、どうにも俺にだけは反応が違った。
「田中さん」
「い、伊藤さんんんっ」
「みんな呼ぶだけで謝られて困ってますよ」
「すみません……」
「何かあったの?とは聞きません」
「えっ!?」
「頑張ってください。でも仕事はしてください」
何があっても仕事しろ。
例え理不尽に彼女に責められて振られた翌日でも、男性の飼い主に飼われた直後でも、仕事は仕事だ。
「伊藤さんって、その………」
「はい?」
「あ、いえ。なんでもないです」
余程言いづらいのか、田中さんはそれ以上は何も言わなかった。
だけど明らかに山口さんが関係してそうだなっていうのは、誰が見ても明白だった。
だってサンプルを届けにきてくれた山口さんを見て、田中さんは飛び跳ねて謝罪して後ずさって逃げていって本棚にぶつかっていた。
余程鈍い人でも気づく。
「まこちゃん、ちょっといい?」
「巻き込まないでくれますか」
「そうは言わずに」
いつもより覇気のない山口さんは、なんか調子狂うな。
普段通りだったら無理にでも巻き込んで笑ってるはずなのになぁ。それでも半ば強引に俺を引き摺り出すんだから大差はないのかもしれないけど。
「田中さんと何かありました?」
「分かる?」
「俺じゃなくても気づきますよ」
「まこちゃんの性格信じていうんだけどさ」
「はい?」
「尻切れ時ってどうしたらいいと思う?」
「ぶぶっ、ごほっ、ごぼおっ」
ちょ、ちょっと、ちょっとたんま!
待って!え、は?はい!?
「痛くってさ」
「えっと、お尻の肉(?)が切れるってどんな大冒険ですか」
「違うって。アナルセックスとか現実するもんじゃないな」
「ごほおっ、ごほっ、げほっ」
ちょ、待って。
人間処理能力に追いつかなくなると固まるんだって。
え、え?ええっ。ちょ、ちょっと待って。
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