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まこちゃん仕事戻ってていいよという言葉に甘えて、事務室に戻ると事務室の中を歩き回る田中さんに出迎えられた。 「いとっ、いとうさんっ」 「やですよ、めんどくさいことはお断りです」 「で、でもっ、俺っ」 「ただ一言言わせてください」 「は、はい?」 「人としてやっちゃいけないことです」 山口さんが過去の後悔から、田中さんになら何をされてもいいと思ってるから犯罪にならないだけだ。 俺は体だけのお付き合いも好きじゃないけど、こういうのはもっと好きじゃない。むしろ嫌いだ。 「でもっ」 「でもじゃないです」 山口さんにされたことを許せとは言わない。 だけど、山口さんにしたことは反省しろ。 「嫌いでもいいです。最低限以外関わらなくてもいいです。でも、わざわざ傷つける意味なんてないじゃないですか」 俺はそんなの、好きじゃない。 嫌いでもいい、関わらなくてもいい。 故意に傷つけるよりよっぽどいい。 ツンとそう言った俺に田中さんはぱくぱく口を動かしたけど、何も言わずに俯いた。 いくら人間関係を拗らせてきたからと言って、していいことと悪いことの区別がつかないのは大問題だ。こんなの空気が読めないどころの話じゃない。空気なんて読めなくていいから人としての分別を弁えろって話だ。 その日、帰ろうとするとまだ残っていたらしい山口さんが事務所に居てちょいちょいと呼ばれる。 「どうしました?痛いですか?」 「あ、うん痛いけど!なんか居た堪れないから別に心配しなくていいから」 いつも通りの軽い感じの山口さん。 こんな風に見えて、ひどいことされても仕方ないと受け入れるほどに後悔してるんだなと感じる。もちろんしちゃったことは良くないんだけど、ここまで許す必要もない気がする。 「教えてくれたお礼」 俺の手を取ってちょこんと袋を乗せて、わざとらしいくらいウインクをしてくる山口さん。嫌な予感しかしなくて俺はその袋の口を開けて覗き込む。 『0.01』 なんて書かれたそれ。 うんよく知ってる。 いりませんっ!と袋ごと山口さんに叩き返す。 「ええっ!?使うだろ?」 「使いませんっ!」 だってレギュラーサイズだもん。 穂高さんのにはちっちゃい。ゴムのメーカーは同じだったけど、サイズが違う。穂高さんはレギュラーはキツいって言っていつもラージサイズを使ってるからこんなの使えない。 そんなことを思う俺の前で別の解釈をした山口さんが叫ぶ。 「まさかの生っ!?」 「オブラート!こんなの買わなくていいからオブラート買ってきてくださいっ!!」 「え、まじで?生かあ」 「セクハラがひどい!!!」 そんなしみじみ言って俺の下半身見ないで!!! 「え、生じゃないの?」 「………」 「やっぱ生なの!?」 「ああもおっ!うるさいです!」 「これだけ答えて!生?」 「もおおおっ」 ふんふんと足踏みして怒りを撒き散らしても山口さんは引かない。 「生ではしません」 「え、ちょっと待ってどういうこと!?」 「もお答えましたっ!それせっかくだから山口さんが使ってください」 人が心配したのに! とんだセクハラを受けた!とふんふんと鼻を鳴らして俺はタイムカードを押す。 お疲れ様でしたと不貞腐れた声を出した俺に、山口さんはありがとと、少し弱った声で言った。 いつも通り見えてもやっぱり無理してるんだなと、そんな風に感じた。

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