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翌日も明らかに挙動不審が続く田中さんと、日を追うごとに元気になる山口さんに差を感じる。 過去のことは置いておいて、現在のことでは明らかに山口さんが被害者なのに訴える様子も何もなく、ごくいつも通りに過ごしている。 ただ、それでも普通じゃないとバレるのは山口さんに対してだけ田中さんの反応が過敏だからだ。 姿を見たら隠れようとするし、声をかけられたら謝りながら逃げる。 誰がどう見ても何かあったと社内中が知っていると思う。 そうして何日か過ごした土曜日。 技術部で今日出勤なのは俺と鈴木さんだけだから、間違っても名前を呼ばれるだけで後ずさって謝る人はいない。 今日は平和だなあと思いながら技術部の事務室に入ると、待ち構えるかのように事務室の中で好き勝手物色している山口さんがいた。 「おはようございます」 「おはよう。ねえまこちゃん」 「はい」 物色してたところから察するに熱性変化のことについて聞きたいのかな?なんて呑気に思った俺は次の言葉にすぐに固まった。 「週にどのくらいセックスする?」 「………」 「お尻ほんとに大丈夫?」 「ふぎゃっ!!!」 そんな言葉と一緒にお尻がそろりと撫でられた。 もちろん俺は飛び跳ねて逃げる。ここに穂高さんはいないけどこんなのバレたら俺が大変っ! むっと山口さんを睨み付けると、俺のお尻を撫でたであろう手をまじまじと見て、 「まこちゃん、細いのにお尻それなりにやわかい」 「いやぁぁぁぁあ!山口さん嫌い!もお嫌い!だいっきらい!」 「あれかな、女の胸みたいに揉むとやわかくなるとか?」 「ああああ!ほんとに嫌い!きらいきらいきらいっ!」 セクハラ!せくはらぁぁっ! 社内での先輩ということに託けたパワハラセクハラだあっ! 「もお嫌い、山口さんの仕事しないもんっ、きらいっ」 お尻を触られて好き勝手言われて。 もう山口さんの仕事はしてあげない。するけど。 「あれほんと数日痛いんだって。まこちゃんほんとに生でしてない?無理されてない?」 「心配してる風を装ってセクハラですっ」 「生じゃないのにゴム使わないって意味わかんないんだけど」 「あああ、もお黙って!切れちゃったところと一緒にお口も縫ってもらってきてくださいっ!」 流石にもうお尻は治ったかも知んないけど、もう縫ってきて!お願い!特に口! 「俺さー」 「………」 「あんなことされるほど嫌われてたとは思わなかった」 「………」 さっきまで下ネタ連発の軽い話ばっかりだったのに、急に重い話を振る山口さん。 このことに関しては山口さんはネタにもしないほど後悔してる部分があるから、お尻の心配みたいに軽くは言えないんだろうけどさ。 「けど不思議」 「………?」 「嫌いな人間相手に勃つ?」 「結局下ネタだぁぁあっ!山口さんなにしにきたんですか?俺にセクハラしにきたなら仕事しに帰ってくださいっ」 「あ、これ。サンプル貰ってきたから調べておいて欲しくって。悪いんだけど構造解析も」 「………それだけ言って帰ってもらえると俺平和です」 「俺はまこちゃんと話してんの好きだよ」 「俺はセクハラさえされなきゃ嫌いじゃないです」 「尻くらい減らないって」 減らなくても困るんだよ。 穂高さんはそんなの絶対嫌な人だもん。 黙ってるのも嫌だけど、言ってお仕置きされるのも嫌で、どぉしよぉと頭を抱えた俺にリア充だなぁとこぼした山口さんは、きっと目が悪い。

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