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2-96.
山口さんとぎゃあぎゃあ言い合っているうちに鈴木さんがやって来て、2人仲良いねなんて楽しそうに笑う。おかしい、鈴木さんにはこのセクハラされてる俺が楽しそうに見えるの?
「山口くんって誰とでも話すけど伊藤くんお気に入りじゃない?」
「分かる?この打てば響く感じがつい」
「それはなんとなく分かるかも」
「分かんなくていいぃっ」
「「それそれ」」
ハモんなくてもいい!
もうなんなのっ!
セクハラされてるのに!しかもやらしい目で見られた!とかじゃなくてお触りなんてNGだっ(穂高さん的に)。
「そうだ、慶子ちゃん今度一緒に取引先来てもらっていい?」
「いいよ、いつ?」
そうして2人が打ち合わせを始めた隙に俺はそっと消える。
山口さんがいると静かに仕事できそうにないもん。
土曜日でいつもより静かな廊下を歩きながらさっきの言葉を考える。
嫌いな人間相手に勃つ?
という言葉。
同じ疑問を俺も抱く。
たとえ女の子だったとしても、嫌いな人相手に……いや、頑張って擦れば……あ、いやでも今の俺じゃ……。
うーん。
というか、勃つ勃たないの前に俺ならエッチしたいと、もっとはっきり言えば突っ込みたいと思えない。
俺には拗らせてる人の気持ちはちょっと分かんないな。
当事者の1人である山口さんでさえ分かんないこと、無関係の俺が分かるはずないんだけど。
そんなことを考えながら仕事をして、お昼休みに入る。
なんとなく予想してたけど山口さんがニコニコ笑って俺の前に座って、俺は隠しもせずため息をついた。
「朝の続きだけどさー、勃つ?」
「………考えてみましたけど俺は無理ですね」
「だよなぁ。そもそもそんな気が起こらないっていうか」
その言葉に俺は頷く。
「ただ、田中さんって色々拗らせまくってるからその辺の感覚も俺たちとは違うのかもしれないですね」
「違いすぎじゃない?」
「歪ませた原因、山口さんだと思いますよ」
「………言い訳はしないけどさ」
「俺はただ、個人的にあゆちゃんのこと妬ましくて嫌いだっただけだよ」
「?」
「嫌いだとは言ったけど、バカとか、地味とか、冴えないとか。俺、言ったことないんだけどなー」
いや、嫌いって言ってる時点でどうかと思いますよ。
「俺が嫌っただけでそこまでなるとか思ってなかったんだよなぁ」
「最初から集団だったわけじゃ無いんですね」
「俺がただ嫌ってただけだよ。それがクラスで目立つやつが公にして嫌ってたから、やりやすかったんだろな」
「そもそもなんでそんなに嫌いだったんですか」
「まこちゃんってきょうだいいる?」
「へ?はい。兄が4人居ますけど」
「俺は弟と妹がいるんだけど、年子なんだよ」
「………ご両親頑張りましたね」
「ほっといて!」
いや、子どもなんて1人育てるだけで大変じゃん。
兄たちは子どもができたら妻が変わったなんていうけど、仕方ない。それほどに育児って大変なんだと思う。
「で、一個下の弟がめっちゃ手のかかるやつで両親は弟に構いっぱなし。二個下の妹が可愛すぎてプレゼント系は全部妹。俺は?って思ってたわけ」
「はあ」
「俺は比較的手がかからないし、友達多いし、大丈夫って思われてただけで、ちゃんと気にかけてもらえてたんだけどさ」
「はい」
「ひとりっ子で、両親の愛情もプレゼントも全部ひとりで貰って、仲良さそうに見えたあゆちゃんちが羨ましかったんだよなあ」
俺が抱いたことのない感情だなぁ。
けど、子どもの頃の好きとか嫌いってそんなつまんないことで始まるもんな。
それが今ではしょうもないことだったと山口さんも分かってるけど、今わかったところでどうしようもない。
「今はどう思うんですか?」
「あゆちゃんのこと?」
「はい」
「うーん、分かんないな」
まあそっか。
嫌いがいきなり好きになるわけでもない。何年かぶりに再会してまだ1ヶ月も経ってないんだからどうとも言えなくて仕方ないか。
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