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2-98.
穂高さんとのんびりと甘い週末を過ごし、俺は今朝には出ているはずのデータを送るためにいつもより少し早く出勤した。
「伊藤さんんっ」
「おはようございます」
「伊藤さんっ……」
「28歳の男が泣きかけてても全然萌えません」
泣き付く勢いの田中さんを先に制する。
もしもこうして泣きそうなのが、泣きつこうとしてるのが穂高さんだったなら見ないフリしてぎゅうってしてあげるんだけどな。
田中さんがそうしてても全然どうとも思わない。
「伊藤さん、仕事しながらでいいんで話してていいですか」
「返事には期待しないでくださいね」
「はい」
そもそも大体知ってるんだって。
なんでかよく分かんないけど山口さんとエッチしちゃったんでしょ。俺が分からないのはなんでそうなったかの田中さんの心境くらいだよ。
「考えてみると、俺昔から寝取られ系って好きだったんです」
?なんでここでAVの話?
っていうか趣味悪っ。
俺は絶対嫌。そりゃAVは見てたけど、俺は極々普通のしか見てない。選んだ基準は顔だ。可愛い系で胸がたわわな子が好きだった。ハードなプレイは好まなかったから、どっちかというと恋人シチュのほんわりしたものを好んで見ていたと思う。
「いやよいやよも好きのうちというか」
趣味悪いなぁと思う俺に気づいてるのか気づいてないのか分からないけど、田中さんはそのまま続ける。
「昔自分をいじめていた奴が、みっともないことになってんのにどうしようもなく興奮しました」
「ぶふっ、ごほっ、ごぼっ」
「俺、やばいですか」
やばいです。
間違いなくやばいです。
もう100%やばいです。
誰がどう聞いても間違いなくやばいやつです。
「………伊藤さんって、そういう理解は」
ないです。無理です。
流石の穂高さんだってそういう趣味の悪さはないよ。
俺から下の毛を奪い取ってツルツルにして、俺の体を好き勝手いじりまくっているけどそれは俺を可愛がっているだけで、そこまで二転三転と歪んだ欲望はない。
間違いなく穂高さんも歪んでいるけど、それは独占欲や支配欲の形が歪んでいるだけでこんなことにはなっていない。
こんな、性欲そのものが歪んでることはない。
「俺、どうしたらいいんでしょうか」
「………」
「初体験があれって、終わってませんか」
終わってますよ、普通に。
まずない。そもそもその欲求を理解できる人は限りなく少ないんじゃないだろうか。
「それに、なんであいつも抵抗しなかったんでしょうか」
それは山口さんの罪悪感ゆえだよ。
自分がしたことに対して、それが償いになるなら黙って受け入れるつもりでいるだけだ。
「もしかして俺が好きでいじめてたとか……?」
「ぶぶぅっ」
「?」
「ごほっ、違うと思います」
「はあ」
ため息つきたいのは俺だよ。あと、山口さん。
人間関係拗らせてるのは知ってるけど、拗らせすぎ。
「俺、どうしたらいいんでしょうか」
「どうしたとしても、もうやばいことやっちゃったと思いますよ」
「………はぁあ」
俺は田中さんが興奮したということに全く共感はできない。できる気もしない。
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