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仕事のメールを送りたかったはずなのに、あまりに危険な性癖を暴露された俺はどうしたらいいんだろう。 山口さんに逃げて!と言うべきなのか、それとも聞かなかったことにして放っておくのか。 放っておいた場合、この拗らせ系男子代表田中さんがどうするか分かんないし、仮に繰り返したとしても山口さんは耐えるだけだろう。 いやいやいやいや、おかしいむりむり。 「伊藤さん?」 「俺、多少性癖がアレなのに関してはある程度の理解は持ってる方だと思うんですよ」 「それなら!」 「けど、それは無理です。俺寝取られ系好きじゃなかったし、無理やりとか嫌いです。どんなことするにしても、相手の同意が必要なんじゃないですか」 たとえその、雰囲気無理やりでもお前ならいいよ!みたいな(そんなとこあるのか?俺にはよく分かんない)。 寝取られ系にしたって、まあそういうプレイの一環で……?いや、俺なら彼女が他の男に抱かれてても全然燃えないし、万が一にも穂高さんが誰かとやってくれとか言い出しても絶対にノーだけど。 「俺にはどうやっても理解できない世界です」 「………伊藤さん」 「別に自由ですよ、趣味嗜好は。けど、何をするにもちゃんと相手を労ってください。自分をいじめてたから傷つけていいなんて、俺は好きじゃないです」 穂高さんの性癖だって大概どうなの?と思ってたけど、これ聞いた後じゃ俺良かったぁあ!としか思えない。 ちょっと痛いことされるし、やたら恥ずかしい思いさせられるけど、俺の体を傷つけたりしない。間違ってもお尻が切れちゃうなんてこと一度だってなかった。それなのに、いまだにエッチした後はどこか痛くないかを聞いてくれる。大体乳首と首が痛いんだけど、それに関しては報告しなくていいらしい。 「俺、なんでこんなことになってるんでしょうか」 「さあ?俺が知りたいです」 それから黙った田中さんは何を考えてるのか分からない。 だけど、こんなにも歪んだ性癖。 一体誰が受け入れれるんだろうか。 「って言うか、原田さんはいいんですか?」 「!?!?」 「山口さんに必死で忘れてました?」 「………」 「きちんと謝罪はしたんですよね」 「はい」 「ちなみに俺、二股とか浮気とかにも理解は全くないんで。喋ったりはしませんけど、田中さん個人の評価がガクッと下がります」 性癖に関しては仕方ない。 歪んじゃったものはもう仕方ない。穂高さんやミホちゃんを含め、うまく付き合っていくしかないのだ。 それを理解してくれるパートナーとの出会いがあると信じるしかない。 だけど、二股とか浮気とかは別。 「いや、俺あいつ好きになったりしません」 「今、原田さんを可愛いなって思います?」 「………」 可愛い……?と呟いた後、一瞬顔を赤くした後、頭を思いっきり振っていた。これは思ったのと違う可愛いが出てきたに違いないなと確信する。 「ありえない、ありえない」 「何が見えたか知りませんけど、ご愁傷様です」 「伊藤さんっ!?」 人によって可愛いのに基準は違う。 俺は穂高さんを可愛いなって思うことがあるけど、それはきっと俺が穂高さんのこと大好きだからだ。 田中さん、前途多難だなぁと思いながら1人首を振る田中さんを見守りながらメールを送り、そうこうしている間に技術部には人が集まり始めて、今日も挙動不審な田中さんとの仕事が始まった。

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