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それからも度々、山口さんや田中さんが俺に一方的な話を聞かせてくるせいで俺の頭は混乱した。 さでぃすてぃっくな穂高さんが普通の、のーまるな性癖に見えた時は自分で自分の頭を打ちつけたほどだった。 「最近まこちゃん疲れてない?」 「主にあなた方のせいです」 「あゆちゃんのあれなに?」 山口さんのいうあれ。 田中さんは俺に勝手に話した日以来、山口さんを見ると小さな悲鳴を上げて逃げることばかりだ。俺的に逃げたいのは山口さんだろうと思うのに、その山口さんはけろっとした顔して技術部に入ってくる。 「もしかしてあゆちゃんの心に更なる傷を……?」 「たぶんそうじゃないですよ」 「?」 「山口さんってどんな子可愛いと思いますか?」 「どんな子?」 そう聞けばうーんと考えるそぶりを見せて、にっこりと笑った。 「まこちゃんみたいな反応する子?」 「ふぎゃっ!だからっ!セクハラですっ!!!」 そろりと俺の太ももに手が乗ってバシッと叩く。 もはや会社の中ではお馴染みの光景だし、俺も山口さんも男だしで、会社の人は仲良いなーと温かい目で見てるだけで誰も俺を助けはしない。 「やっぱ足は肉付き悪くない?なんでお尻はやわかいんだろ」 「知らないっ!嫌い!山口さんきらいっ!」 やっぱりこの人嫌い!と叫んでみてもまたやってるわくらいにしか思われなくなったのが辛い。 「真面目にいうと、俺あんま可愛いとか思ったことないなぁ」 「そうなんですか?」 「打てば響く可愛さはダントツまこちゃんだけどさ」 「………」 「一般にいう彼女への可愛さってあんま分かんない」 それはそれでどうなんだ?と首をかじける俺になんてことない顔した山口さんは続ける。 「多分彼女は悪くないよ。俺がそれだけ好きじゃないってことだろうなって思う」 「山口さん、やっぱり下半身ゆるゆるですね」 「ほんとそうかも。まこちゃんは?可愛いなって思うの?」 思うよ。 他人から見たら理解できなくても俺には可愛い。 「あ、女の子ね」 「もおぉっ!やっぱり嫌い!」 「うそうそ。かなり口悪そうな感じだったけど虐められてない?」 「………別に」 「あ、虐められてる?」 「………」 「けど、大事にされてたなぁ」 しみじみ言われると恥ずかしくて俺は黙る。 本当に大事にはされてると思う。 「恋愛してこなかったわけじゃないけど、なんていうか。ああ違うなって思うんだよなあ」 「なんで付き合うんですか、そんな相手と」 「そういうのってすり合わせていくもんじゃない?」 「埋めていくものだと思います」 ぴったりハマるパズルみたいに気持ちよくなくて当たり前だ。 それを擦り合わせて、削ってぴったりにするんじゃなくて。 少し伸ばして、少し縮んで、そんなことを重ねながら、お互いの何かを削ったりせず形を変えて埋めていきたい。 「あんま変わんなくない?」 「すり合わすと自分が減る気がしませんか?」 「………?」 「そうじゃなくて、合わせられるところを合わせて、それ以外は時間をかけていい形にしていきたいです」 だって自分を削って合わせたってきっとしんどい。 自分らしく、相手らしく、それを変えずに付き合っていきたいなぁと俺は思う。 「まこちゃんはそんな風に付き合ってんの?」 「どうなんでしょうね」 「受け入れられない時ってない?」 「そりゃあると思いますよ」 「これまではなかったってこと?」 「なかったとは言わないけど、無理強いはされないです」

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