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2-101.
そうして社内の問題児2人に振り回されつつも仕事をこなし、ゴールデンウイークがやって来た。
今回俺は前半に出勤、後半で4連休の予定だ。
急に持ち込まれる検査依頼がほとんどなかったおかげで、技術部からの出勤は俺1人で、久しぶりに静かに仕事ができた。
しかも、定時出勤定時退社なんていう、ホワイトもびっくりなオフホワイトじゃん!と思いながらるんるんで帰宅した(そもそもホワイト企業ならゴールデンウィークに働かないだろう)。
「ただいまっ!」
「「おかえり」」
と穂高さんの声に被ってもうひとつ声が聞こえる。
穂高さんが家にあげるのはミホちゃんが穂波ちゃんくらいで、玄関には女の子が履くパンプスがあったから穂波ちゃんかと思い玄関を進んだ。
そうして扉を開けると、穂高さんと穂波ちゃん、そしてミホちゃんも居た。
「みんな揃ってどうしたの?」
「2人揃ってお前に用事」
「俺?」
「俺はちょっと、その……」
と言いづらそうなミホちゃん。
ほほぉ、これは間違いなく阿川くんのことだなとつい笑顔になると、うざいと軽い蹴りが飛んできた。
「いたたっ!」
「ちょっとほづ兄!誠くんがバカになったら困るからやめて!」
「頭じゃないから大丈夫」
「ならいいんだけど」
「え!?よくない!よくないから!」
頭じゃないならどうぞって感じで差し出さないで!
そして穂高さんも蹴りくらいならいいかって見逃さないでちょっと痛いから!
「なに、俺を蹴りたい用事ならちょっとだいぶ遠慮したいよ!」
「先に穂波からでいいよ」
「やった!」
そうして穂波ちゃんが広げたのは試験対策用の参考書。
俺も5年くらい前にお世話になったそれ。
「取るの?」
「誠くん受けた?」
「持ってるよぉ」
「化学分野だいぶ難しくない!?」
「化学より法令が多すぎじゃない?」
「計算とか、こう覚えるコツとかない?」
「穂波ちゃんの就職先予定は?」
「環境分析狙ってるんだけど」
「ならどっちかは欲しいね」
持っているだけで有利というか、その仕事をするならいずれ取る必要がある。うちの会社じゃ本社内の誰か1人が持って名前を連ねていればいいから現在は社長がその役をしてくれている。
けど、環境分析の仕事となるとほぼ全員にその資格が必要になるであろうことは想像に容易かった。
「穂波ちゃんって法令は得意?」
「あ、うん。暗記は得意なんだけど、好きなのに計算の応用とかは慣れるまで苦手で……」
「なら法令だけ合格したらいいよ」
「うん?」
「そういう職場だと、化学分野免除のための講習受けれるはずだよ」
「えっ!?」
「うちの会社からでもそれに行ってる人はいるよ。2年間月に1〜3回くらいの講習が必要だけど、法令だけは自力での合格が必要だから」
俺みたいに法令がダメな人間には使えない裏技。
「そんなのあるの?」
「うん。俺も入社してから知ったから、学生はあんまり知らないんじゃないかなぁ」
「っていうか誠くん、これ自力で取るってほんと頭どうなってるの?」
「見ての通り伸びっぱなし!」
「それは後でほづ兄に切ってもらって」
うん、切ってもらうけど。ちょっとボケたつもりだから突っ込んで欲しかった。
「俺が使ってた参考書と勉強してたノートいる?」
「あるの?」
「多分、ちょっとどこにあるか分かんないけど……ゴールデンウイークの間に探しておくよ」
「ありがとっ!あとあと、」
そうして穂波ちゃんの就活相談が始まった。
そっかぁ、もう穂波ちゃんも就活するような年になったのかとおじさんみたいな気持ちになって、ぶんぶんと頭を振った。
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