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穂波ちゃんの研究分野は化学系と言っても俺とは全然違っていて、アドバイスできることは少ない。 だけどこうして頼ってくれるのはなんとなく嬉しい。 俺には居ない下のきょうだいが出来たような、そんな気分。俺は兄にこうして相談はできなかったけど(俺が就職に悩む頃にはみんな家を出ていた)。 それからしばらくして、ミホちゃんがケープなんかを用意し始めて俺の散髪が始まった。 「ミホちゃんはどうしたの?」 「………同棲って、どう思う?」 「阿川くん?」 「そう」 「うーん、ミホちゃんは考え込むタイプだから部屋は多めにしたら?」 「?」 「1人になりたい時に1人になれる場所があると少し安心じゃない?」 「誠くんと兄貴は?」 そう聞かれた俺が穂高さんを見ると、穂高さんも俺を見て居た。 「「いらない」」 かなぁ。 「そもそも誠が家に居ねえ」 「あはは」 「笑い事じゃねえよ」 笑って誤魔化してみても誤魔化されてくれないらしい。 ずっとこうだし、なんならここ最近は早く帰ろう!という決意と努力で夜の8時頃に帰ることが週に1度くらいならできるようになったから出会ってすぐよりマシだ。 「喧嘩したら?」 「誠と喧嘩になると思うか?」 「………絶妙に論点ずらされて肩透かしくらいそう」 「そうなるだろうし、そもそも誠は俺を怒らせるようなことをしない」 「兄貴って潔癖で沸点低いのに?」 「最低限こうしろって言えばそれ守ってるからな、誠は」 お前がそれ守んねえんだろと言った穂高さんにまあまあと濁した返事をしている辺り、ミホちゃんはそうして穂高さんを怒らせたことがあるらしい。 「穂高さんって潔癖なの?」 「今更?」 「綺麗好きかと思ってた」 「兄貴は行き過ぎてるって!」 ミホちゃんのその言葉に穂波ちゃんも頷いている。 俺からしたら住みやすい綺麗な家にしてくれてありがとうって感じだけどなあ。 「お互いで見つけたらいいんじゃない?」 「うん?なにを?」 「ちょうどいい場所。あのカゴ、俺の鞄入れるカゴなんだけどね」 「うん」 「俺的には大きめのカゴに放り込むだけだし、穂高さんにとってはカゴのおかげで中の散らかり具合が見えないしでちょうどいいの」 「………」 「そういうの、見つけていけばいいんじゃない?」 あのカゴを置く前、おにーさんはよく舌打ちしながら俺の鞄を直してたような気もする。そしていつからかあのカゴが置かれて、俺のカゴになった。 「妥協案の前に手が出る自信がある」 そんな無駄な自信はいらないよと言ってあげたいけど、ミホちゃんの場合本当にそうなる気がする。 うざい片付けろ!とかって片付ける場所も作らずに蹴るなんてこと、、、うんありそう。 「………あんま殴ってばっかじゃ、だめじゃん」 ぽそっと言ったはずの言葉なのに俺たち全員に聞こえていて、穂高さんと穂波ちゃんはらしくないと言って大笑いしていた。 ミホちゃんは相変わらず不器用。 そばに居たい気持ちもあるし、自分が殴りすぎることへの不安もあって踏み切れない。相変わらず自分の中で考えすぎるタイプみたいだ。 「阿川くんは大丈夫だよ」 「丈夫だから?」 「違う。ミホちゃんがそういう子だって知ってるから、きっと1人で勝手に話を進めてる」 「それ何が大丈夫なんだよ!」 何にも大丈夫じゃないけど、ミホちゃんがこんなに悩むなら押して押して押し倒すくらいの勢いでいいと思う。 別れたくて、一緒に住みたくなくて悩んでるんじゃなくて、そばに居たいけど嫌われるのが、愛想を尽かされるのが怖くて悩んでるんだったら阿川くんは好きに押しまくればいい。 ミホちゃんにはそのくらいの方が、きっといい。

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