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そうして話をしながら髪を切ってもらい、穂波ちゃんの研究を見ていると気づいたらいい匂いがし始めた。 キッチンに並んで立つのは穂高さんとミホちゃんで、穂波ちゃんはやる気のかけらも見せなかった。 「カレー!」 「正解」 「誠くん香辛料入れていい?」 「ダメ!食べれない!」 「甘いカレー好きじゃないんだけど」 「穂高さんがかけてるソースかけて!」 よく分かんないけど辛くなるらしいソース。 俺には甘口でお願いします。 「こういうのも合わせなきゃなんないのか……」 そうして謎に落ち込むミホちゃんは放って、穂高さんはご飯をよそっていく。 「俺大盛り!」 「はいはい」 「あたしサラダいっぱい!」 「はいはい」 「兄貴福神漬けは?」 と穂高さんはの要望が集まって、最後は舌打ちが聞こえた気がしたけどここにいるメンバーは誰も気にしなかった。 2人が帰ると疲れた……と言わんばかりに深くソファに腰掛けて、ちょいちょいと俺を手招きする穂高さん。 ぺたぺたと近づいていくと,ぐいっと手を引かれてその膝の上に乗った。 「お疲れ様」 「誠もお疲れ。早く帰ってこれたのに悪いな」 「大丈夫!まだ9時だよ、いつもなら帰ってくる時間!」 「それがおかしいんだよ」 そんな言葉を言って,俺の方に自分の顔を押し付けてくる。穂高さんが俺に甘えてくるなんてそんなに多くないから、俺の心臓が忙しなく動いている。 「穂高さん」 「なんだ?」 「ちゅーしたい」 顔あげて、とねだると優しく笑った顔があって、そこに顔を寄せる前に俺の頭の後ろに回った手に引き寄せられた。 ちゅ,ちゅと重なる唇をぺろっと舐めると舌を噛まれて顔を引いた。 「いたいよ」 「痛いって顔してねえよ」 してる、もん。 穂高さんは少しむくれた俺の頬を撫でて,風呂する?と聞いてくる。入れてくれるの?と聞けば頷いていたので、拗ねてた気持ちはあっという間に流されていった。 ゴールデンウイーク中の出勤はどの日も早く帰ってこれて、夜ご飯を作る穂高さんのお手伝いをしたり、ゲームをしたりといつもの平日とは違う過ごし方をして、貴重な4連休を迎えた。 「穂高さぁん」 「どうした?」 「今日用事ある?」 「特にねえな」 「俺、母の日何も考えてなかった」 「見にいくか?」 「間に合うかな」 「それは微妙」 だよねぇ。まあ母さんにだし、遅刻した!って言えば笑ってくれるだろう。 「俺、小さい頃にカーネーションの絵をあげたくらいだから、何がいいか全然分かんない」 「店に行けば色々あるぞ。手頃なのだとハンカチとか?」 「うーん……」 「財布とか、もちろん花束も贈れるだろうし」 「花はだめ」 「花粉症?」 「大雑把すぎてすぐに枯らす」 穂高さんはそんな姿が想像できるのか苦々しい顔をして笑った。 「けどね、母さんって貰ったもの大事にしたい人だから。枯れていくと悲しそうだったんだよね」 いつだったか、かなり昔。 兄の奥さんが母の日だからと母さんに花束をプレゼントしてくれたけど、日に日に枯れていく花を見ては悲しそうだった母さんを忘れられない。 その様子はまだ一緒に住んでいた兄も見ていたから、それ以来母の日に送るのは食べ物が多くなってたような覚えがある。 「誠のお母さんらしいな」 「だから花はなしかなぁ」 たとえ丁寧に世話をしたとしても花は枯れる。 多少大雑把で数日早めてることはあるかも知れないけど、いくら頑張っても枯れるのに悲しい顔をさせてしまうのは申し訳ない。 「見に行くか」 「うん!」 そうして連休初日の予定は決まり、俺はのろのろと着替え始めた。

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