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落ち着いていたように見えたのは気のせいだった。
先週はそれぞれの営業さんが、この検査を出来る人員が新製品のためにひと月ほど現場を離れるので急ぎの検査があれば教えてくださいとアナウンスしていただけだったらしい。
その結果、今週になり持ち込まれる仕事の多いこと多いこと………。その結果今週は毎日残業後定時後に残業するという謎な現象が起きている。
家に帰っても静かで、穂高さんが寝てる時間に帰る毎日。
ようやくやって来た土曜日も、1時間ほど残業して帰ることになってしまった。
「ただいまぁ」
とのろりのろりと玄関を開ける。
その瞬間、家の中からすごくいい香りがした。
「ハンバーグ!ハンバーグだっ!」
この匂いはハンバーグ!
穂高さんが作る煮込みハンバーグに間違いない!と靴を適当に脱ぎ散らかしてリビングに駆け込んでいく。
「煮込みハンバーグ!?」
「正解。あとおかえり」
「ただいまっ!うわぁ、おかずは?サラダなぁに?」
「卵とマカロニ。あと野菜スープもある」
「贅沢ぅ」
「おやつにはケーキ買ってきてる」
やったぁぁ!と飛んで喜ぶ。
疲れた時には甘やかされるに限る。ほんとそれ。
そう思ってソファに座った穂高さんにダイブする。ぐっって息の詰まる音が聞こえた気がしたけど、気にせずぐりぐりと頭を擦り付けると穂高さんの手がゆっくりと髪を撫でてくれる。
「お疲れ様」
「うん」
あああったかい。
もう寒い季節なんかじゃないのに、この暖かさからは離れられそうにない。
「ほら、手ぇ洗ってこい。俺もまだ食ってないから一緒に食べよう」
「うんっ!すぐ洗ってくる!」
穂高さんとご飯食べれるんだ、嬉しいなぁ。
手を洗ってリビングに戻るとキッチンに立って温め直している穂高さん。当たり前の光景のはずなのに、見るのは久しぶりな気がした(朝は見てる余裕がない)。
「出張、やだなぁ」
「なんか楽しそうなことねえの?」
「沖縄の人は美ら海水族館に連れて行ってくれるらしい」
「いいとこじゃん」
「………行くなら穂高さんと行きたかった」
むすっとそう答える俺は、支社の人にとってはこいつ!って感じだろうけど、穂高さんは顔を綻ばして笑った。
「誠と知り合うまで水族館なんて行ってないから」
「うん?」
「今度俺と行くために予習しといて」
「っ!!!任せてっ!」
なるほど!そういう楽しみ方もあるのか……。
それならこう、落ち着きそうな、パワースポット的なものを教えてもらってもいいかもしれない。
「誠セレクトの旅行ってのも面白いかもな」
「泊まるところは穂高さん選んでね、俺寝れたらなんでもいいからカプセルホテルとかでいい人だよ」
俺にホテルや旅館まで任せていたらそんなことになりかねない。でも、これまでの穂高さんを見るにそれは絶対にノーなわけで。かと言って俺はいいホテルや旅館の選び方なんて分からない。値段相応!と適当にポチる自信しかないから辞退させてもらおう。
「北海道にも行くんだよ」
「誠の会社って支社多いな」
「そうだね。各地域に1〜2はあったはずだし。九州は沖縄と福岡?福山?にあるよ」
「福岡な。お前地名くらい覚えろ」
「だいたい覚えてる!」
「怪しすぎるだろ」
「へへっ」
笑っても誤魔化せないけど、あんまり深く追求されて覚えろと言われても覚えられる気がしないから笑っておくと穂高さんは深いため息をついた。
そして、お前の頭ってほんとどうなってんの?と軽く俺の頭を小突いていた。
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