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新幹線に乗っていただけのはずなのに、ぐったりと疲れが乗った。 改札を降りると、すぐに社長!と言って社長に寄ってくる誰か。俺よりもずっと年上で、社長よりは年下に見える方。きっと愛知県にある支社の、それなりに偉い人。 「社長、お久しぶりです」 「迎えに来てもらって悪いね」 「いえ、名駅からだと支社まで乗り換え多いですし」 めいえき?なにそれ、ここ名古屋駅だよと俺は心の中でツッコミながら、2人の会話を見守る。 そして、会話が終わったらしい2人が俺と山口さんに視線を移してじっと見られる。 「君が伊藤くんか!」 「はじめまして」 「君は確か大阪にいた……」 「山口です。覚えていてくださってありがとうございます」 どうやらここの支社長らしいこの人。 名刺を交換したのはいいんだけど、樹神って、なんて読むんだろう。 「伊藤くん、彼の名前当てたら今夜は特上の鰻重でも食べに行こうか」 「まこちゃん頑張って!」 「ぜひぜひ」 「え、社長意地が悪いですね」 俺が読めないことなんて絶対分かってるよなぁ。俺の国語能力の低さ知ってるくせに。 「きしんさん?じゅしんさん?すごいですね、すごくご利益がありそうな名前です!」 「ふふっ、どちらもハズレだけど、なんだか社長が伊藤くんで遊ぶ気持ちも分かった気がします」 「ええ、違うんですか?うーん、きがみさん!あ、きがみさんだ!なんか1番名字って感じがします」 うんうんと1人納得して頷く。これパーフェクトじゃない?と思っているけど、3人の顔を見るに外れらしい。 「ええ、もう俺分かんないです……」 「こだまだよ」 「ふえ?これで?これでこだまって言うんですか!?」 「そう」 「うわぁ、すごいですね!絶対読めない!」 「………」 俺がそう答えると、樹神さんはぽかんとして俺を見た。 そうしたかと思ったら、急に笑いはじめて今度は俺がぽかんとする。 「これは、野田くんが伊藤くんはあげませんからって言ってきたのが分かる気がするな」 「伊藤くんはこんな感じだけど、仕事はちゃんと出来るからね」 「今の技術部はさぞ明るいんでしょうね」 その言葉に俺はハッとする。 そうか、この人もおそらくは過去の技術部出身。 俺の未来の姿になるのかも知れない……んだけど、俺はやっぱり東京を離れたくないから無理だなと想像するのは一瞬でやめた。 「まこちゃん、鰻食べ損ねたじゃん」 「大丈夫ですよ。さっき社長は特上って言ったから、普通のなら食べれると思います!」 「あははっ、まこちゃんそれ屁理屈」 「ね、社長!」 にこっと笑って社長にねだる。 そうすると社長まで変な顔をして、俺を見た。 「俺、去年初めて鰻食べたんです!すっごい美味しくて大好きです!」 「社長、これで渋ったら可哀想ですよ」 「そうそう、まこちゃん鰻食べる気満々ですよ」 社長はなにも言わないけど、きっと今夜は鰻を食べに行くだろう。 俺で遊ぼうとしたお代だと思ってもらえたらいい。 「そういえば、大阪の支社長も変わった名字だったな」 「そうなんですか?」 「当てたら俺がたこ焼き奢ろうか?」 「せめて串カツにしてください」 「支社の場所わかってる?通天閣微妙に遠いんだけど」 「日本地図さえ大体なんで大丈夫です」 そう胸を張って答えると、3つのため息が重なって聞こえてきた。

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