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樹神さんが運転してきてくれた車に乗り、支社を目指す。 その中で社長と樹神さんがなにやら難しい話をしていて、俺はよくわからないし関係もなさそうだから景色を楽しんだ。 俺的に1番印象深いのは、なぜ捻れてるのかよく分からないビルみたいなものだ。残念ながら名古屋城はほんのちょびっとしか見えなかった。 着いた支社の中で、1番広い会議室を借りて新製品の説明会をする。もちろん、前に立つのは俺だ。 流石の俺だって緊張くらいする。 「伊藤くんはいつも通りやってくれたら大丈夫だから」 「いつもって、俺どんな風にしてましたっけ?」 「あれでしょ、社長。分からないんで時間くださいってやつ!」 「そう、それそれ。即答できなかったらそれでいいから」 「へ?」 「製品の規格としては問題がない。使い方の問題なら調べますって回答でいいんだよ」 「はあ」 「製品としての規格の範囲で分からないって言うなら、減給かな」 「ひえっ!?」 そんなバカな!こんな過酷な労働条件で人並みのお給料なのに下げるの!?鬼!鬼なの!?鬼がいる! 「悪いけど俺と山口くんは取引先に行くから頑張ってね」 「はい」 お気をつけてと社長と山口さんを見送って、案内された部屋にひとりぼっちで取り残された。 結果として、説明は特に問題なく終わった。 される質問は想定していたものや、これまで既に本社で上がって実験済みのものばかりで、俺は少しほっとして、疲れたぁと誰もいなくなった会議室の椅子の上にだらけた。 「はは、疲れた?」 「あ、樹神さん!」 話しかけられて慌てて体を起こす俺に、気遣った声が響く。 「楽にしてていいよ」 「ありがとうございます。思ったより緊張してたみたいです」 「いやいや、緊張することないよ」 「………」 そういうわけにもいきませんよ。 「社長はああ見えて研究には厳しいんだよ」 「そうですね」 「新製品の説明会を入社3年目の社員に簡単に任せるような人じゃない」 「鬼なんです」 「あはは、そうかも知れないね。けど、可愛い子ほど旅させろってやつじゃないかな」 いやいや、可愛い子に旅させて誘拐されたらどうするの? 可愛い子はちゃんと大事に大事に手元に置いておかないと……ってそんな言い方したらあれだけどさ。 「俺、育てるなら適当に大雑把に雑にじゃなくて、もっと丁寧に育てられたいです」 「仕事にそんな手間かけれないのが技術部だからなあ」 そうなんですよね。 放任主義で育って欲しいなんてすっごい無茶振りな部署だ。それでもなんだかんだ、俺は3年目を迎えた。今のところ本気で辞める予定もない。 「ほら、そろそろ社長が帰ってくるからご飯食べに行く準備をしよう」 そうして樹神さんに促されて俺は荷物をまとめる。 「そういえば、この後は誰が運転する予定ですか?」 「俺だよ」 「もしよかったら俺が変わりますよ」 「?」 「俺、本当にお酒に弱いんで……。樹神さんはお酒は?」 「晩酌が生き甲斐かな!」 「だったら俺が運転します。俺、一杯も飲めないんで」 「………人生の9割を損してるな」 真面目な顔してちょっとずれたことを言っているから、この人も多分大丈夫じゃない。 お酒を飲めなくても人生は十分に楽しい。 そうして愛知県で過ごす夜は更けていった。

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