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2-120.
樹神さんが運転してきてくれた車に乗り、支社を目指す。
その中で社長と樹神さんがなにやら難しい話をしていて、俺はよくわからないし関係もなさそうだから景色を楽しんだ。
俺的に1番印象深いのは、なぜ捻れてるのかよく分からないビルみたいなものだ。残念ながら名古屋城はほんのちょびっとしか見えなかった。
着いた支社の中で、1番広い会議室を借りて新製品の説明会をする。もちろん、前に立つのは俺だ。
流石の俺だって緊張くらいする。
「伊藤くんはいつも通りやってくれたら大丈夫だから」
「いつもって、俺どんな風にしてましたっけ?」
「あれでしょ、社長。分からないんで時間くださいってやつ!」
「そう、それそれ。即答できなかったらそれでいいから」
「へ?」
「製品の規格としては問題がない。使い方の問題なら調べますって回答でいいんだよ」
「はあ」
「製品としての規格の範囲で分からないって言うなら、減給かな」
「ひえっ!?」
そんなバカな!こんな過酷な労働条件で人並みのお給料なのに下げるの!?鬼!鬼なの!?鬼がいる!
「悪いけど俺と山口くんは取引先に行くから頑張ってね」
「はい」
お気をつけてと社長と山口さんを見送って、案内された部屋にひとりぼっちで取り残された。
結果として、説明は特に問題なく終わった。
される質問は想定していたものや、これまで既に本社で上がって実験済みのものばかりで、俺は少しほっとして、疲れたぁと誰もいなくなった会議室の椅子の上にだらけた。
「はは、疲れた?」
「あ、樹神さん!」
話しかけられて慌てて体を起こす俺に、気遣った声が響く。
「楽にしてていいよ」
「ありがとうございます。思ったより緊張してたみたいです」
「いやいや、緊張することないよ」
「………」
そういうわけにもいきませんよ。
「社長はああ見えて研究には厳しいんだよ」
「そうですね」
「新製品の説明会を入社3年目の社員に簡単に任せるような人じゃない」
「鬼なんです」
「あはは、そうかも知れないね。けど、可愛い子ほど旅させろってやつじゃないかな」
いやいや、可愛い子に旅させて誘拐されたらどうするの?
可愛い子はちゃんと大事に大事に手元に置いておかないと……ってそんな言い方したらあれだけどさ。
「俺、育てるなら適当に大雑把に雑にじゃなくて、もっと丁寧に育てられたいです」
「仕事にそんな手間かけれないのが技術部だからなあ」
そうなんですよね。
放任主義で育って欲しいなんてすっごい無茶振りな部署だ。それでもなんだかんだ、俺は3年目を迎えた。今のところ本気で辞める予定もない。
「ほら、そろそろ社長が帰ってくるからご飯食べに行く準備をしよう」
そうして樹神さんに促されて俺は荷物をまとめる。
「そういえば、この後は誰が運転する予定ですか?」
「俺だよ」
「もしよかったら俺が変わりますよ」
「?」
「俺、本当にお酒に弱いんで……。樹神さんはお酒は?」
「晩酌が生き甲斐かな!」
「だったら俺が運転します。俺、一杯も飲めないんで」
「………人生の9割を損してるな」
真面目な顔してちょっとずれたことを言っているから、この人も多分大丈夫じゃない。
お酒を飲めなくても人生は十分に楽しい。
そうして愛知県で過ごす夜は更けていった。
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