402 / 434

2-121.

そうして愛知県で3泊して、今度は大阪に移動をした。 以前穂高さんとも来たことがあるから、知っているところもあったりする。 ちなみに、社長は名古屋で取引先との話が終わると忙しそうに東京に帰っていったので、今は山口さんと2人だ。 「まこちゃん、どうする?どこか食べに行く?」 「大丈夫です、俺ホテルに引きこもります」 「外で遊ばないの?」 「外も嫌いじゃないけど、俺ぐうたらしてたいんで。山口さんはどうぞ遊びにいってください」 どうぞどうぞ!と頭を下げてみても山口さんは引いてくれない。 っていうか、山口さんに誘われる前に大阪支社の人から観光案内スケジュールなるメールが来てたんだよな。引きこもれなくても山口さんに付き合うことはできそうにない。 「串カツ食べに行かない?」 「名物なんて食べなくていいから家でカレーが食べたいです」 「カレーにする?」 「そぉいうことじゃないんですっ」 穂高さんのご飯が食べたいの! 思ったよりもいいものを食べさせてもらってるよ? 名古屋で用意されていた俺用のお弁当はどうやら地元では有名らしい名店のものだったみたいで、味もボリュームもばっちりだった。夜ご飯を食べに行こうと連れ出されても、美味しいお店に連れていってもらえた。 だけど、違うのだ。 穂高さんの、優しくて懐かしさのあるご飯が食べたい。俺の胃袋の故郷のご飯が恋しい。 「彼氏さんご飯作るのうまいの?」 「もおホテル帰る」 「え、ちょっと!」 「おやすみなさい。月曜日まで予定たっぷりなので、どうぞ俺に構わず遊びに行ってきてください」 一応山口さんにペコリと頭を下げて、俺は1人ホテルに向かう。 こんなにホテル生活させていいの?って思うけど、どう考えても平日ホテル泊+毎週末なにかしらな手段で東京と往復させる方がお金がかかる。会社の経費節約のせいで俺は東京に帰れない。 ばふっと俺の城となるベッドにダイブして、深く息を吐く。 7時過ぎか。穂高さんは、きっと帰ってきてご飯の用意でもしてるんだろうな。 邪魔しちゃダメだと思うのに、俺はついついスマホを手に取って、今日の夜ご飯なぁにとメッセージを送信した。 食べれないから、エア夜ご飯。 穂高さんのご飯が食べたい。 そうしてしばらく待っていると、穂高さんから写真が届く。 フライパンに、炒められているお肉と野菜。いや、これどうみてもまだ完成してなくない? 『中華』 とだけヒント(?)がやってくる。 うーんと少し考えて、ほいこーろーと返事を送る。それからしばらくすると正解と返ってきた。 それの何度目かのやり取りで、届いた写真はカップに入った杏仁豆腐。 『くせでつい』 と送られてきた言葉に、これが俺用に買われたものだと知る。買い物ついでに、今日は中華だしなとついカゴに入れてしまったんだろうなぁ。 俺が帰るまで置いといてねとメッセージを送ると、賞味期限が無理と言われたけど、大丈夫!とすぐに返事をした。 穂高さんはほいこーろーと野菜のサラダと春雨スープかぁ。 俺、何食べよう。 もうこのまま寝てもいいんだけどな。 なんかずっと知らない人と話してばっかで疲れた気もする。 あ、でもスーツ皺になっちゃうな。 明日クリーニングに出したら月曜日には間に合うか。 もういっか……。と俺はそのまま目を瞑った。 穂高さんに会いたい。 会えなくてもいい、穂高さんが眠っている家に帰りたい。 そんなことを思うと目頭が熱くなってきて、それを誤魔化すように枕に顔を押し付けて、無理やり眠った。 時間にしては12時間近く寝たはずで、いつもの平日なんかよりもよっぽど楽なはずのに体がすごく重い。 着たまま寝たせいでスーツは皺だらけだし、まつげは泣いたせいで変に固まってるみたいで気持ち悪いし、色々と自分が悲惨だ。 仕方なく起き上がって、シャワーを浴びる前にスマホを充電器に挿す。そして光った液晶画面にはメッセージの受信が表示されていて、その相手は穂高さんだった。 今から9時間ほど前、夜の10時過ぎ。 『起きてる?』 それだけ。 起きてる、電話していい?って聞いたら声だけでも聞けたのかな。 なんで寝たんだろう俺のばか。 だめだ、せっかく寝て忘れようと思ったのに、また目から涙が溢れ始めた。

ともだちにシェアしよう!