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涙のせいで視界が悪いけど、穂高さんにごめんなさい寝てたと返信を送る。
この時間じゃ、休みの日だし穂高さんの方が寝てるかなと思ったけど起きているらしく、飯食って寝た?って返事が返ってきて、見てたの!?って言いたくなるくらい聞かれたくないことを聞かれた。
のそのそと身支度を整え、スケジュールに合うようにホテルを出る。
気を遣ってくれたのか、俺と歳の近い人が案内役に命じられてて、お休みの日にすみませんと頭を下げると、いえいえ会社負担で美味しいもの食べれるんでもう全然!と、関西のイントネーションが抜けきらない言葉で言われ、俺は泣きそうになった。
出張に出てまだ数日。穂高さんが恋しいのはもちろん、関西弁を聞くと俺のことを大きな愛情で包む母さんのことまで思い出して、心の中は大雨だった。
出張での初めの週末で、俺が思ったことは平日がいい働いていたい仕事をしたいだった。
そう、働いてたら寂しいなんて感じる間も無く時間が経つ。用意されたお弁当に、連れ回される飲み会があるからご飯を食いっぱぐれることもない。
「まこちゃんおはよ」
「おはようございます」
「隣の部屋なのに全然まこちゃん見なかったんだけど、マジで引きこもってた?」
「外に出てましたよ。串カツとか食べに行きました」
「俺も誘ってよ」
「俺も誘われた側なので、すみません」
「いや、大阪支社の人って大体俺のこと知ってるんじゃない?」
それもそうか、と思いつつ歩き始める。いやでも、一応俺を歓迎するためのものだから……まあなんでもいっか。
大阪支社に着くと、名古屋と同じようにたくさんの人に歓迎された。そしてやっぱり、ここの支社長という偉い人が出てきてくれて、俺に名刺を渡してくれた。
「名古屋の樹神さんから、伊藤くんの反応は楽しいって聞いてね」
「?」
なんのこと?と思いながら俺も名刺を渡して、自分の所属と名前を名乗る。そして、貰った名刺を見て気づく。
そうか!また俺に読めない名字クイズする気なんだな!とハッと見上げると、にっこりと笑っている支社長さんがいた。
なに、うちの会社人で遊ぶ人多くない?
京 真一
と書かれた名刺。
名前はしんいちさんだよね、きっと。
名字、え、なにこれ素直に読んでいいの?
「きょうさん?」
その言葉に首を振って、ならけいさん?と聞いても首を振る。
ちょっと待って、そんなのもう候補ないし。
「読み方分からないですけど、ザ京都!って感じの名前なのに大阪の人なんですね」
少し残念でそう言うと、周りからは笑いが生まれた。
だってもう京都です!って感じの名前じゃない?
「あ!もしかして都って画数が多いから端折ってきょうとって読むんですか!?」
「ぶぶうっ、まこちゃん!あんま喋るとバカがバレるよ」
「山口さんっ!!」
「なるほどなぁ、これは樹神さんがクイズにしておけという気持ちも分かる」
「正解ですか?」
「不正解だよ。改めて、大阪で支社長をしている京(かなどめ)です」
「かな?かなどめさん???」
え、聞き違い?と聞き返すとそうだよと言われて、分かるわけないじゃんと俺は心の中で吠えた。
少し揶揄われつつも、大阪での新製品の説明や、山口さんの付き添いで取引先へ説明しに行ったりしながら毎日を過ごし、平日の良さを感じた。
「じゃあ、まこちゃん残りの出張頑張ってね!」
「………山口さんが行きます?もれなく沖縄と北海道付いてきますよ」
「それは本当羨ましいけど、東京で仕事が俺待ってるから」
ぱちっとウインクを決める山口さんに、それ俺もだと思う……と思いながら山口さんと別れて、また新幹線に乗り込んだ。
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