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2-125.
最後の新製品の説明会は、教授からのダメ出しも多かった。
人の前で発表するならこうした方がいい、パワーポイントはこうして、なとど学部生だった頃よりも俺を見る目が厳しい。
「学生でこれやったなら十分だ」
「教授が厳しぃ」
「けど今は仕事だろ。お前がその重たい責任を背負って前に立ってるんだ」
「はい」
「悪いとは言わないけど、ベターじゃなくてベストを目指せ」
「はい」
「よく頑張った」
こういうところだよ。
こうして叱ることもあるくせに、褒めることだって絶対に忘れない。
やっぱり、穂高さんと教授はどこか似てる。
「渡瀬教授、いつもありがとうございます」
「また来るんだろう?」
「はいっ!考えられる案を練って持っていきます。教授から見た安全の判断や意見を伺いたいです」
「俺も考えてみるよ、あれを安全に酸化させずに持ち運ぶ方法」
「はいっ、よろしくお願いしますっ!」
ガバッと頭を下げると、教授はまたなと言って帰っていく。その姿が見えなくなるまで見送って、俺も帰る支度をする。
やっと帰れる。
4週間長かった。
色んな人がもてなしてくれたけど、色んなところの色んな人と話をして、学ぶこともやりたいこともたくさん増えたけど。
その頑張りを褒めて欲しい人がいる。
それは社長でもなく、支社の偉い人でもなく、尊敬している教授でもない。
俺の仕事について、何やってるのか全くわかんねえと言ってる穂高さんに褒めて欲しい。
頑張ってきたなって、ひとりでよく頑張ったって、俺がどれほどひとりで過ごすのに向いてないかを知っている穂高さんに、存分に甘えたい。
そう思うとうっすら涙が浮かんで、それを適当に拭って電車に乗り込んだ。
今から帰るねとメッセージを入れて、ガタガタと電車に揺られる。それからしばらくするとスマホが震えて、分かったと返事が返ってきた。
この時間だと、穂高さんの方が早く帰ってるだろうから、家に帰ったら抱きつこう。そしていっぱい撫でてもらおうと決意を固めた。
そうして2時間と少し。
俺はひと月ぶりに東京に帰ってきた。
2年と少し前の俺はここに来て人多っ!と思ったけど、今の俺はこんなものかと特に何も気にならない。
都会の少し重い空気も懐かしいと感じる。
1ヶ月も日本各地を転々としたホテル暮らしで体はすごく疲れているはずなのに、俺は段々元気になってきた。
るんるんと電車を乗り換え、慣れた駅に着く。
早く歩いても意味ないのに早歩きで家に向かって、家の玄関を元気いっぱい開く。
「ただいまっ!!!」
「おかえり」
リビングの奥から聞こえる小さな声に、靴だけ脱いで俺は廊下を駆け抜けてリビングに飛び込む。
キッチンに立つ穂高さんを見て、飛びつきたい気持ちがうずうずと湧き上がってくる。
「ちょっと待ってな、もう火消すから」
ちゃんとまてが出来てる俺に優しく笑った穂高さんは、言葉通りすぐに火を消してキッチンから出てきた。
そんな穂高さんに飛びつき、よろけることなく受け止めてくれた。ぐりぐりと肩におでこを擦り付けて、すんすんと鼻を鳴らす。
穂高さんの匂いがする。
すん
「いい匂い」
「飯にする?」
「ちがぅ、穂高さん、いい匂い」
そう答えた俺に何も返さず、穂高さんは俺の体を手で撫でる。太もも、お尻、腰、背中、首にやってきた手はくすぐるみたいに首を撫でた。
「ふふっ、こそばい」
「思ったより痩せてねえな」
「いろんな人がご馳走してくれた」
「何がうまかった?」
「穂高さんのご飯の方が、俺好き」
重たくもなくて、俺の好みを分かってくれてる。
連れて行かれたカレー屋さんのカレーは辛すぎて、泣きながら食べた。廻らないお寿司屋さんでは特上を頼んでくれたけど、わさびのせいでわさびの味しかしなかった。
「誠が何食いたいかなって考えてさ」
「うん?」
「でも1ヶ月もほぼ外食だったわけだろ?」
「うん」
「だから今日は肉じゃが。あっさりめの和食にした」
「俺の故郷!!!」
穂高さんの作るご飯はなんでも美味しいから好きだけど、和食の柔らかくよく染みた薄味がたまらないんだよ。グッと胃袋を掴まれてる。
わぁいと喜ぶと、もう出来るから手ぇ洗ってこいと言われて俺はいそいそとスーツを脱ぎ散らかしながら手を洗いに行った。
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