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2-126.
脱ぎ散らかしたはずのスーツはいつの間にか片付いていて、ダイニングのテーブルにはほかほかと湯気を立てるご飯が並んでいた。
「いただきますっ!」
ぱちっと手を合わせて、早速お味噌汁。
これだよ、これ。
俺は穂高さんのお味噌汁が好きなんだよ。しかも俺が好きな具がたんまり入ってる。
わかりやすく、俺を甘やかしてる穂高さん。
そうするとお味噌汁に何かがぽとりと落ちた。
「???」
「なんで泣いてんの?」
「………ほっと、して?」
かな。
この優しい味が体に染み渡って、力が抜けた気がする。
「………しんど、かった」
「うん」
「ご飯、食べてても、全然美味しく、なくて」
「うん」
「ずっど、穂高ざんの、ごばん、だべだがっだぁぁぁあ」
思ったより穂高さんに捕まえられていたらしい胃袋が限界を越えた。
お味噌汁を一気に掻き込んで、さっぱりした和え物とご飯を食べて、肉じゃがも口に放り込む。
「無くなんねえからゆっくり食えよ」
「ずびっ、ずずっ」
「ははっ、味する?」
「じない゛げど、おいじぃ」
しないけど、すっごく美味しかった。
そうして久しぶりに胃袋が満足して、俺はお腹いっぱいとソファに転がる。
ああ、これだ。これが俺の幸せ。
転がった先に視線をやると穂高さんが片付けをしていて、たまに俺と目が合って、心がすごくぽかぽかした。
片付けを終えた穂高さんは、俺の頭の上のスペースに座ったので俺は芋虫よろしくモゾモゾ移動してその膝を借りる。
「穂高さん」
「どうした?」
「もうすぐお風呂?」
「そうだな」
「お風呂いれてぇ」
「はいはい。風呂ではなんもしねえよ」
「痩せてたら?」
「それは俺が無理」
その返事に俺が笑ってしまう。
俺が痩せるのを嫌うくせに、仕方ないとはいえひと月も会えてなくて何もできてないとそれは置いておくのか。なんとも穂高さんに都合のいいルールだなぁと思わなくもない。
「ひと月お前がいないって結構堪えた」
「そうなの?」
「最初の頃は作りすぎるし、買いすぎるんだよ」
「つい?」
「そう。2〜3日分で買ったつもりが使い切るのに倍かかった」
困ったんだぞ、と言ってるはずなのに、穂高さんの表情はすごく柔らかい。俺がいることが当たり前になってくれていて嬉しい。
「あとね、もう一個おねだりしていい?」
「内容による」
「今日はいっぱい意地悪して」
「疲れてねえの?」
「俺ね、あんなにも満足度の低いオナニー初めてした」
「ぶっ、ごほっ」
俺の呟きに穂高さんは咽せているけど、俺にとっては一大事だった。
「穂高さんのこと、いっぱい考えた」
「俺も」
「ほんと?」
「言ってるだろ、お前の泣き顔にはすげえ唆られんの」
「………」
「誠は?どんな俺考えた?」
それには答えられない。
目の前には俺がムラムラして、ゾクゾクして仕方のない、意地悪くて、仄暗い欲望を隠さずに俺を見てる穂高さんが居たから、ゆるしてと、ふるふる首を振るしか出来なかった。
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