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パソコンを起動して、全体を通しての報告書を作ったり、ひとりひとりの質問に対しての返信を作ったりとそれなりにきちんと仕事をこなしていると、代わる代わる営業さんが挨拶に来てくれる。 「伊藤くん帰ったんだって?おかえり!これよろしく!」 「伊藤くん、おかえり。急ぎじゃないんだけどこれの測定頼める?」 「おかえり、いない間に入った依頼置いていくね」 と、みんな挨拶もそこそこ俺に仕事を置いていってくれる。こんなお土産は全力で拒否したい。 待ってこれ、納期見てないけど残業後定時で帰れる気がしない。貯めたところで減ることはなく、なんなら増えるだけな自信もある。 うんざりとしながらひとつひとつ目を通すと、基本的に納期はゆったりめに取られていて安心する。たまにギリギリのものもあるけど、手書きの付箋で謝罪と理由が書かれていて、俺は急ぎのものから段取りをつけはじめていた。 そうしている間にあっという間に昼になって、逃げる気もない(正しくは逃がしてくれる気がしない)のに迎えに来てくれた山口さんに連れられて食堂に行く。 「この辺でいい?」 「はい、どこでもいいです」 「今日の日替わり美味しそう」 「タルタルソースが残念です」 「そう?普通じゃない?」 うん、普通。 これしか知らなかった頃はタルタルソースってこんなものかぁって思てたのに、今はもっと美味しいタルタルソースを知ってしまった。 穂高さんが作ってくれるタルタルソースはもっと白身がごろっとしていて、卵好きには堪らないタルタルソースに仕上がっている。ただ、気づいたらそんなタルタルソースになっていたから、卵好きな俺にと思ってそういうふうに作ってくれていると思うからもう堪らない。愛情のスパイスがふんだんだ。 そうは言っても食堂のご飯も美味しいから、残したことは無いんだけど。 「ごちそうさまでした!」 「まこちゃんって意外と食べるの綺麗でびびる」 その言葉にふふんと鼻を鳴らす。 そりゃそうだ、穂高さんがうるさいんだもん。 だけど、これが意外と役に立っている。 出張の時だって、取引先と食事をしなければならない場面もあったけど、そんな時にふと思い出したりして役に立った。そして、支社の偉い人に綺麗に食べてくれる子でよかったと安心された。 働くって仕事ができたらいいってわけじゃ無いんだなと感じた瞬間だった。 「それで本題なんだけどさ」 「聞きたく無いです」 「もう食べたじゃん」 「………」 「あゆちゃんが逃げ腰なんだけどどうしたらいいと思う?」 「はい???」 「まこちゃんにだから言うんだけどさ」 「聞きたくないです」 「俺アレからうまく抜けなくなって」 ごほっと咽せる俺を気にした様子もなく、山口さんは続ける。ああ待って、本当に聞きたくない。 「まあ減るもんじゃ無いしと思うわけなんだけど」 「………ほんとに下半身ゆるゆるなんですね」 「なーんかあゆちゃんがいいんだよ」 「………」 いや、意味わかんない。 この人頭大丈夫? 「別に俺は怒ってないし、責める気もないんだんけどあゆちゃんが全然で」 「そりゃ、普通の人ならそうだと思います」 「俺が普通じゃないって?」 「下半身の緩さに関しては相当に」 そもそもお尻に入れられるって、相当な覚悟が必要、なんじゃないかな。それか何かにものすごく追い詰められていてそのくらい安いと思うほどに何かすごく辛いとか。 ただ、それでも自分を大切にしてくれる人じゃなきゃ、最後は傷ついて終わってしまう。 「………俺、体だけとか嫌いです」 「まこちゃんはそうだろうね」 「本当にお互いが割り切った関係で、後腐れも愛情も何もないなら、そこまで言いませんよ」 「でも、少なくても田中さんは割り切れてないです」 「だよなぁ」 「俺は、そういうことする時、好きな人とがいいです」 「あゆちゃんは?」 「さあ」 ただ、逃げ気味なのは間違いない。山口さんは推しが強いというか強すぎだから、田中さんが戸惑っている間にどうなっているか………。 「襲っちゃダメですよ」 「突っ込まれるの俺なのに?」 「オブラート!!!」 そう叫ぶ俺が見えてないのか、言葉をオブラートに包む能力に乏しすぎる山口さんは話を続ける。 「ならせめてアナニーのやり方教えてくんない」 「なんで俺に聞くのっ!?知らない!知らない!」 くっそぉ!いつかこの人のことセクハラで訴えてやる! 本当これ相手が女の人だったら間違いなくセクハラだから!迷いなく訴えるレベルのやつだよ!! 「まこちゃんしないの?」 「………」 「えっちはしてるのに?」 「………」 答えたくなくて黙る。 まあ俺はお尻でオナニーなんてしない。考えたことがないとは言わないけど、あの穂高さんのものに慣れた俺が適当なもので満足できる気がしないし、かと言って俺だけであそこまで慣らすのって大変だし、いった後の賢者タイムの虚しさが尋常じゃなさそうで仕方ない。 それになりより、穂高さん的に限界を超えて痩せていない限り、俺がムラムラして週末にえっちのお誘いをして断られたことは無い。そばにいる限りどちらかがしたくなって誘えば、そのままもつれ込むからそんなに溜まらない。 「このひと月で悲鳴あげられることは減ったけど、避けられてんだよなぁ」 「田中さんの迷言ですけど、押してダメでも押してみるそうですよ」 「ははっ、なにそれ!普通引くんだって」 俺もそう思う。 引いた結果そのままフェードアウトにもなりかねないけど、それはそれだ。その場合押し続けてもきっと同じ結果だから……ってあれ?それならどっちでも同じになる?あれ??? 「俺は2人がどんな風になってもいいんですけど、お尻が切れるようなことになるのはやめてくださいね」 「その心配はいらないから!」

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