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そうして、俺はいつもの日常に戻った。
出張が終わってからの1週間は持ち込まれる依頼を捌くのに必死だった。土曜日でさえ定時で終われなくて、家に帰ったのが夜の10時頃だった気がする。
ドロドロだったからシャワーを浴びて、ご飯を食べて……いつ寝たっけ?って感じ。
のそのそとベッドから降りて、リビングに向かう。
「おはよぉ」
「おはよう」
「???なにご飯?」
「朝」
「俺のもある?」
「あるよ。用意するからちょっと待てる?」
自分がご飯を食べているのに俺のために席を立とうとする穂高さんに、断る意味で返事をする。
「だいじょぉぶ」
自分で出来ると、のろのろとキッチンに入る。
そこには俺用にってクロワッサンサンドとまだ温かそうなスープが残っていて、それをダイニングのテーブルに運んで食べ始める。
「思ったより早く起きたな」
「俺もびっくりしてる」
「けどありがたい」
「うん?」
「ケーキ。誠に選ばせたかったから」
「………誕生日!!!」
「そう」
「今年は起きてる時にプレゼントくれる?」
「どうだろうな?」
むむっと穂高さんを睨んだつもりだけど、穂高さんは笑った顔を崩さないから多分睨めていない。
「もしかして今日の夜ご飯、俺の好物?」
「明日でもいいけどどうする?」
「今日がいい!明日穂高さんとご飯食べれるか分かんないし」
「分かった」
本当は明日が俺の誕生日。
誕生日に働くなんて嫌だなぁ……と目の前の人を見上げる。
穂高さんはサービス業でもしない限りは誕生日絶対休みだもんな。
「どうした?」
「元旦生まれっていいなぁと思って」
「弟妹に集られても?」
「………祝って、るんだよ」
「まあ、半分はそうだろうな」
もう半分は分かっていてもなんだかんだ甘い穂高さんのせいでああなるんだと俺は思う。俺の家だってきょうだい仲はいい方だと思うけど、穂高さんの家はもっとだ。
穂高さんがこんなお兄ちゃんだから、ミホちゃんと穂波ちゃんの気持ちは末っ子として痛いくらいに分かるけど、流石にやりすぎだとも思う。
「俺も穂高さんの誕生日ちゃんと祝いたい」
「一緒に過ごせたらそれでいいんだけど」
「………そおいうの普通に言えちゃうのもずるい」
好きとかそういうのはほとんど言わないくせにこういうことは普通に言うのがまたなんかさぁと足をぷらぷらさせた。
「行儀悪い」
「………」
「誠は?」
「俺?」
「誕生日。どう祝われたいとかあんの?」
「………ない。祝ってくれたら、それでいいかな」
「俺もだよ」
それにしては自分の誕生日にお金を使いすぎだったんじゃ???と頭の片隅では思ったのに、俺はほいほいと流された。
穂高さんが祝ってくれるならそれがいい。
ケーキと穂高さんのご飯と、ついでに甘いだけのえっちがあったら最高だ。
そんな俺に穂高さんは爆弾の投下をやめない。
「なんか昔って特別なことしねえとって思ってた時期もあるんだけど、誠といると変わった」
「うん?」
「特別なことして祝うより、特別な相手に祝われたいわ」
柔らかく笑った顔でそんなこと言うなんて、間違いなく俺の心臓を壊しにきてる。バクバクと忙しい心臓を抑えた俺に穂高さんは楽しそうに笑っていたから、もしかしたら半分くらいは俺で遊んだのかもしれないけど、揶揄うだけの雰囲気じゃなかったのも、なんとなく分かるほどに穂高さんとの付き合いも長くなっていた。
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