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今日はデートだ!と気を良くした俺は、ご飯を食べ終わるとテキパキと着替えた。 いつもなら穂高さんが出掛けるっていうまでパジャマのままとか良くあるけど、俺だってやれば出来る。 着替えてリビングに戻ると、ちょうど片付けを終えた穂高さんが出てきていて、出掛けれる?と聞いてきたので頷いた。 最初にケーキ屋さんに寄って、俺のケーキを選ぶ。 ここまでは予想通りだったけど、この次に連れてこられた場所は予想外だった。 「なんでネクタイ?」 「ネクタイじゃなくてスーツ。どうせこないだの出張絡みのやつ、近いうちに外部説明会でもあるだろ」 「………」 「だからちゃんとしたスーツあった方がいいだろ」 「待って!それなら2着5万円くらいのやつでいい!」 「ちゃんとしたのって言ってんだろ」 「待って待って待って!!!」 ここのスーツいくらっ!? ネクタイ一本で諭吉が飛ぶものがあるようなお店だよ!?スーツなんて考えただけで諭吉がいなくなる! 「ま、待って!俺には早い!あと5年待って!」 「俺が待てても仕事は待ってくんねえよ。完成に漕ぎ着けたのが誠なんだ、ちゃんとしたもの着て背筋伸ばして頑張ってこい」 「いやいやいやいや!ここまでの値段は要らない!分かった!1着5万円くらいのにして!お願い!」 「選び方にもよるけど、安いのだと8万くらいで出来るのもある」 え、ほんとに?と思っているうちに店の中に引き摺り込まれて、俺は引くに引けなくなった状況に泣きたくなる。 そんな俺に気づかないふりをしているであろう穂高さんは、約束していた夏目ですと俺的にゾワゾワする丁寧な言葉を使っていて、俺は腕を摩った。 あの穂高さんは何度見ても、慣れない。 「夏目様ですね。お待ちしておりました」 「今日はこっちの……って、誠」 「はいっ」 「彼の分をお願いします」 「うえっ」 「誠」 そう窘められるけど、俺にとって穂高さんは口の悪い人だ。 だからこうして丁寧な穂高さんってなんかこう、鳥肌が立つ。 そうは言っても社会人としては礼儀正しくて良いのかもしれないけど、猫の皮の厚さがすごいといつ見ても感心する。 「今回はイージーオーダーでよろしいですか?」 「はい」 そうして店員さんがどこかに消えて行った隙に穂高さんの服を引っ張って呼ぶ。 「どうした?」 「オーダースーツって種類があるの?」 「あるよ」 そう言って穂高さんは辺りを見回して、冊子の1ページを開いて見せてくれた。 オーダースーツの区別表みたいなもので、さっき穂高さんたちが話していたイージーオーダーは真ん中に書かれている。 値段帯は……5〜10万円、生地やパターンによって15万円ほどに伸びるらしい……って。 いやいやいや、待って高くない? 「5万円で作ってくれる?」 「せっかく作るんだからケチらなくていいんだよ」 「………そもそも俺のスーツ知ってるでしょ?こんないいスーツ着たら他のが浮いちゃうからやっぱり量販店に行こうよ」 「後でその辺も揃えるから安心しろ」 「ふあっ!?!?」 「うるさい」 待って待って待って!? その辺まで揃えたらすごい金額じゃん! 「お待たせしました」 「待ってないですっ!」 「ありがとうございます。誠は見た通り細身なんで」 「これだとパターンから作っても大きくなるでしょうね」 「かと言ってこの調子じゃフルオーダーはさせてくれそうにないですし」 「そうですねえ」 そんな会話をする穂高さんと定員さんの話は右から左へと流れていく。 俺の誕プレ、俺のひと月のお給料くらいにならない?大丈夫……? 「誠」 「はぁい」 「誠は懲りずに高いとか心配してるのかも知んねえけど、これは高くない買い物。騙されたと思って一回貰ってくんね?出来たの着たら絶対分かるから」 「………なにが?」 「誠がスーツに着られてるんじゃなくて、サイズが合ってなくてでかいからああなるんだよ。サイズが合えば誠はちゃんとスーツを着て、胸を張れる仕事してるから」 そう、なのかな。 それでも着られてたらどうしよう……と俺は思うのに、穂高さんが優しく言ってくれる言葉に、俺はいいの?という返事しか出来なかった。 こんなに高いもの、俺に買っていいの?と何度聞いても、穂高さんはいいと自信満々に答えるだけで、俺はどうしたらいいのか分からないまま、聞かれる質問に答えたり体のサイズを測られたりした。

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