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「昼どうする?」
「外?」
「時間的にそうなるな」
「うーん、デザートバイキングとかは?」
「デザートは食べていいけど、飯代わりにするのはなし」
「………なら親子丼!」
「もっと高いものでいいんだぞ」
「うーん………オムライス!」
食べたいもの、と考えて出てくるのがその辺だ。
どっちにしてもそう高いものではないけど、俺の好物。
「誠ってほんと、贅沢にならねえな」
「そおかなぁ」
もう贅沢させて貰ってるけどなぁ。
穂高さんも言ってたけど、誕生日(前日だけど)を好きな人が祝ってくれるってそれってかなり贅沢じゃない?
ただでさえいつも甘やかしてくれる人が割り増しで甘やかしてくれるのに、これ以上求めたらバチが当たる。
「いつもならお昼に卵食べて夜にも卵って言ったらだめっていうけど、今日は夜ご飯卵あるでしょ?」
「………あるな」
「俺はこういう小さな幸せを寄せ集めた贅沢が1番の贅沢だと思ってる!」
ぐっと力を込めて話すと、穂高さんの顔が柔らかく緩む。
そしていい子って言うように軽く俺の頭を撫でて、レストランガイドに目を向けてくれた。
どうやら親子丼のチェーン店は入っていないようで、洋食屋さんはあったからオムライスでいいか?と聞かれてそれに頷く。そうしてレストランの方に歩き始めてすぐ。
俺はとあるお店の食品サンプルに釘付けになった。
サクサクそうな衣。
その中につるっとした白い楕円を描き、その中央にはオレンジ色がとろりと溶け出している。
なにこれ、卵の天ぷら?卵の天ぷら???
じぃっと見つめる俺は、俺を呼びに来た穂高さんの何度目かの呼びかけでようやく卵から意識が逸れる。
「誠」
「はいっ!」
「どうした?」
「………卵の天ぷらぁ」
「ああ、うまいよな」
「穂高さん作ってたっけ?」
「俺も外でしか食べたことねえよ」
「………」
それを聞いて、また食品サンプルを見つめる。
そんな俺に、これ食べる?と俺の気持ちを汲んでくれた穂高さんは、俺に小さくて大きな贅沢を味わわせる天才だと思う。
そうして当初の予定とは違う天ぷらを扱うお店に入って、俺は卵の天ぷらが乗った天丼を頼む。
待つことしばらく、ふたつ並んだ天丼のそれぞれ真ん中に黄身が蕩け出した卵が乗っている。食品サンプルと同じ……いやそれ以上に美味しそう。
ぱちんと手を合わせて、いただきますと言って食べ始める。
「んんんんんっ!!」
「美味い?」
「とろとろだぁ、甘い美味しい、きっといい卵使ってる!」
「それは絶対分かってねえだろ」
「ふふっ」
うん、分かってない。でもこれすごく美味しい。
黄身って半熟が甘くて最高って思ってる俺にとってはかなりのご馳走。
「卵ってほんと色んなものになるねぇ」
「そうだな」
「ほかになんか俺が知らなさそうな卵料理あるかな」
「スコッチエッグとか?」
「???」
「ゆで卵に肉巻いて揚げてるんだけど、あれも半熟で出来たことってそうないんだよな」
「そなの?」
穂高さん、ゆで卵をうっかり茹で過ぎて硬い黄身になってたことないのに?と俺が疑問を感じていると、穂高さんはきちんと答えてくれる。
その後でまた火を通すから、ゆで卵の段階で半熟にしていると更に火が通って硬くなるらしい。それを見越して柔らかめに茹でると殻が剥きづらいと言っていた。
「今度食べてみたい!」
「いいよ。誠が休みの日にな」
「うんっ!」
穂高さんが作ったなら味は間違いなく大丈夫という確信がすでにある俺は、美味しい卵の天ぷらを食べながらまだ見ぬ卵料理に夢を馳せた。
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