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「全然もてなせないけど、適当に座ってね」
「座る場所もないって」
それもそうだ。
このリビングに今残っているのは、取り外されたエアコンくらいだ。
「いつからミホちゃんと住むの?」
「部屋は契約してるからお盆の間に俺は引っ越すかな」
「ミホちゃんは?」
「休みの日に少しずつ荷物入れてるみたい」
「なかなかかかりそうだね」
「ミホちゃん自分で追い込んでた」
「?」
「今の部屋の契約、今月末らしいから今月中にはなんとかなるはず」
いや、ミホちゃんそれでいいの?
なんかヤケクソに感じるんだけど、大丈夫なのかな。
いや、まああのよく悩むミホちゃんだからこのくらいしなきゃ動けないのかもしれないけど、それにしても、自分にまで乱暴しなくても良いんじゃないかなぁと思う。
「っていうか本当に貰っていいの?」
「うん、新しく買うし」
「あれも結構新しくない?」
「まあ、おにーさんがいいって言ってるんだからいいんじゃない?」
俺が止めれる人じゃない。
「阿川くんが頼んだ業者はいつくるの?」
「昼前かな」
「鍵預けておくから、俺行ってもいい?暑い、溶ける」
「鍵いいの?」
「うん、もうここに何もないし。お盆明けに返してくれたら大丈夫」
まあ最悪返してもらわなくても問題はない。
どうせ穂高さんが退居の手続きを完了させたら鍵交換だから、契約時に渡した本数より少なくても大丈夫だとは聞いている。
「2人が引っ越し終わったらお蕎麦持って遊びに行くね」
「ミホちゃんに言っとく」
「うん。あ、あとこれ。こっち飲んでないから良かったら飲んで」
「あ、さんきゅ」
そうして俺は2年と少し過ごした家を出た。
自分の愛車(原付)に跨って、いつもの通勤ルートとは違う道を通る。
そうして15分ほど走ると目的のマンションに到着した。
「うわぁ綺麗」
さすが新築。
いや、そうじゃない。この原付どこに置けばいいんだろ?とキョロキョロしていると、中から人が出てきた。
「どうかされましたか?」
「ひゃ!すみません!邪魔でしたか?」
「いえ、見学会にお越しですか?」
「………あ、えと、引っ越し、です」
「そうでしたか。部屋はお分かりですか?」
「えと、すみません。まず原付ってどこに停めたらいいですか?」
「駐輪場に案内いたします」
そうして丁寧に頭を下げてから、俺の少し前を歩いて案内してくれる。
どうやらまだ分譲もしているらしい。
完成してしまうと自分でカスタマイズ出来ないデメリットはあるけど、実際に住む部屋を見れるメリットがあるもんなぁ。俺が住む部屋はどうなったんだろう。パソコンの画面で見るのと絶対に違うから楽しみだなぁと思う。
「こちらが駐輪場になります。各部屋につき場所が決まってますので、そちらにお停めください」
「ありがとうございます」
「あちらからカードキーで出入りも可能ですので、あちらの扉をご利用ください」
そうして最後まで丁寧に案内してくれた人にもう1度お礼をいう。
俺と穂高さんだと駐輪場に停めるのは俺の原付くらいだから十分なゆとりがある。
あんまり家族が多い人の場合、有料で追加スペースを借りることもできるっぽいけど俺には関係ないかなぁと扉に向かって歩く。
俺たち以外にも既に入居した人がいるのか、駐輪場にはちらほらと自転車やバイクが停まっていた。
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