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引っ越し当日は本当にバタバタするらしい。 上京してきた時に移動しなきゃいけなかったものは服とゲームと原付くらいなもので、家具や家電なんてたいそうな物がなかったから簡単だっただけだと身をもって知った。 エアコンが取り付けられてかなり快適な作業環境にはなったけど、2人で片して行っても段ボールの山が完全になくなることはなかった。 「誠もありがとな。疲れただろ」 「帰りコンビニでアイス買おうね」 「1個だぞ」 「うん!」 リビングにいくつか残った段ボール。 その段ボールはリビングだけじゃなく、寝室や洗面室、玄関など要所要所にあるけれど、今日はこれ以上はしないでおこうとなった。 お風呂や洗面台は使えるようになっているし、俺や穂高さんが今夜と明日着る服はちゃんと出てる。 とりあえず今日はこんなもんだろ!と俺の中では満点だ。 「あ、そうだ!」 「うん?」 「ちゃんとゴムとローションも出しといたよ!」 「なんでだよ」 「せっかくの初夜だよ!?」 「初夜って普通は新婚夫婦の初めての夜のことを言うんだよ」 「……引っ越してきて初めての夜は?」 そう聞くと悩むのか、穂高さんから答えは返ってこない。 「お盆前、引き継ぎでバタバタしてゆっくりできなかったもん」 休みの日だって、引っ越しの準備でバタバタしてたし。 いいじゃん、使い方が多少違ったってここで過ごす初めての夜は初夜でいいじゃん。 「……だめ?」 「だめじゃない」 少し食い気味の返事と、ご褒美みたいな触れるだけのキスがやってきた。 本当はもっとって言いたいけど、俺のお腹の虫が限界を迎えそうなのでそれは後にとっておく。 2人してざる蕎麦を食べに出て、帰りにコンビニに寄ってアイスクリームを買う。ついでに明日の朝に食べるパンとおにぎり、飲み物なんかも買ったからそれなりに重い荷物を2人で持って新しい家に帰る。 「ねえねえ」 「どうした?」 「試したいことあるんだけどいい?」 「別にいいけど」 エントランスに入ったところで、俺は考えていた試したいことを試す。 カードキーはかざすだけでいいと知っているけど、リュックに放り込んだままでもいけるのかな?と思っていたりする。 ほら、俺って帰りにコンビニ寄って両手が塞がってることもあるから。 そう思ってリュックをセンサーに近づけてみる。 「うーん、やっぱり反応しない?」 「何のためにリュック持ってきたかと思えばそのためかよ」 「でも無理そぉ」 「リュックにICカードポケットねえの?」 「なにそれ?」 「俺のビジネスバッグだと、底にICカード入れる場所あるからそこに入れときゃ普通に反応したけど」 「俺のリュックにはそんなのないよ」 適当に荷物が入ればいいだけの鞄にはそんな機能的なものはついていない。 残念だなぁと思いながら、リュックからカードキーをごそごそと取り出してぴっと当てる。 「そういやポストに表札貼る?」 「前のは?」 「お前のだよ」 「俺宛の郵便物とか……そうないよ」 「でも不便だろ、住民票も移すと役所関係ここに届くぞ」 「今更じゃん」 これまでもそうだった。 その度に配達員さんがわざわざ穂高さんの部屋のインターホンを鳴らして、伊藤誠さん宛の郵便物が〜と言っていて、受け取っていた。 「おいおい考える」 宅急便とかだったら夏目様方って買いておけば届くし。 そんな話をしてポストを通り過ぎると、タイミングよくエレベーターが到着した。 またしても俺たちが住む階が既に選択されていて、ハイテクすごいと思った。

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