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2-169.
新居での初夜は思ったよりも濃厚で、引っ越しで疲れた体に鞭を打ったような気もするのに、朝起きるとかなりスッキリとしている。
「ふぁぁあ」
よく寝たぁと体を起こすと、隣にまだ温もりが居る。
穂高さんより先に起きるなんて滅多にないことで、その寝顔をじっと眺めて、俺はもぞもぞと暖かい体に身を寄せる。そうすると俺の体に腕が回って、思ったよりも強い力で抱きしめられる。
「………起きてる?」
「今起きた」
それでも寝ようとしているのか、寝ぼけているのか、戯れているのか。
俺を抱きしめた腕を離す気はないらしい。
その腕に抱きしめられたまま、目の前の肌にちゅうっと吸い付く。残念ながら昨日はそんなことする余裕がなかった。
「痕つけ……ても消えるな」
といつもと同じように注意しかけて、それをやめた穂高さんに甘えて少しだけキツく吸い付く。俺と違って痕が残り難い穂高さんだから、こんなの2日もしたら消えるだろう。いくつか吸い付いて、満足した俺は顔をあげて穂高さんを見る。
「俺もつけていい?」
「ダメ」
「なんでだよ」
不満げな顔を隠さない穂高さんだけど、ちゃんと理由はある。
「そんなんされたらえっちしたくなるもん」
「お前単純だもんな」
「そういうのされたらほぼそのままえっちするじゃん、覚えてんの!体が!」
そう覚えさせたの誰だと思ってるんだか、と気持ち睨むとなぜか、いい子と褒められた。
残念ながらそんなことをされなくても朝の生理現象は起きているけど、それは特に気にせず服を着る。
「つーか今何時?」
「俺も分かんない。時計っていらないって思ってたけど意外とないと不便だね」
「だろ?」
昨日の俺が後回しにした時計だけど、いる。
大体は寝る時にアラームがてらスマホを持っているけど、今日はお互いに持っていない。
それは疲れからゆっくり寝たい気持ちも現れか、それとも何にも邪魔されずに過ごしたかったからなのかは俺にもよく分からない。
そんなこんなでリビングに出て行くけど、そこはまだまだ段ボールが目立つ空間だった。
それでも穂高さんのおかげでキッチンだけは綺麗に片付いているし、ダイニングやソファも使える状態にはされている。俺ならきっとそこさえ踏み場を無くす自信がある。
「うわ、まだ8時じゃん!」
「お前もうちょっと寝とけよ」
「スッキリ起きちゃったもん」
少し文句を言いつつも、ダイニングに座った俺に昨日買ったパンとおにぎり、飲み物を持ってきてくれる。
それを2人して食べながら、今日はどこを片付けていくかを話してみる。
「穂高さん的最優先は?」
「キッチン。コーヒー飲めねえの無理」
「チルドのカフェオレも美味しいけど、穂高さんのあったかいカフェオレには負けるもんねぇ」
それはいい豆を使っているからなのか、俺の好みの甘さと温度を分かりきっているからなのかは判断がつかないけれど、いつものカフェオレが恋しいのは間違いない。
「俺はキッチン。誠はリビング。一箱ずつ物を出して、その都度聞いてくれたらいいから」
「はぁい」
そう、俺の独断で直すわけにはいかない。
絶対に忘れる自信しかないから、探す羽目になるのが分かってる。
「穂高さんって記憶力良すぎない?」
「そうでもねえよ。誠が好きなこと以外覚えなさすぎなだけだろ」
うーん、ととぼけた顔して首を傾げてみたけど、その通りかもしれないと思ったのは穂高さんにはバレバレだったと思う。
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