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第29話 極上の

 怖い顔をして、周囲を威嚇しておきながら、利用したい時だけ甘い声で鳴く。決して懐く気なんてないけれど、でも、ご飯が欲しい時だけ近寄ってきてくれる。そして、用が済んでしまえば、ぷいっとそっぽを向いてさようなら。  それでも、頼られてると嬉しくなれるかもしれない。  でも、やっぱり――。 「……」  そんな君が腕の中で、すやすやと眠っていいたら、ぴったりとくっついて、身体を丸めて全部こっちに寄りかかるように、擦り寄るように、そして、心地良さそうに寝ていたら、なんて最高の朝なんだろう。  本当に猫みたいだ。よく見かける、あの安心しきった猫の寝顔そっくり。  美少年、って初対面の時は思ったっけ。  今でもそう思うけれど、なんだろう、寝顔においてはもっとあどけなく見えるから、若干犯罪者の気分がしてくる。  いや、君は同じ歳なんだってわかってるんだけど。  君はもしかして歳をとらない魔法でもかかってるんじゃないだろうかとさえ思うんだ。 「ンっ……」  つい、我慢できず鼻先を突付いてみたのがいけなかったのかもしれない。  眉をひそめて、くすぐったいのか避けるようにもっと懐へと潜り込んでくれる。でもそれだと極上の寝顔が見れないなぁなんて思って、身をこちらも捩ってみたりして。  だって、本当に極上なんだ。 「……んー」  思わず触りたくなるほどに可愛い寝顔なんだよ。 「ん…………」  だからもっと見てたいと思ったのだけれど。 「わっ! ぁ、照葉さんっ、うわっ」  寝起きの君も極上だった。 「おはよ。公平」 「…………おはようございます」  もしかして、篭もるのはクセなのかな。今度は掛け布団の中に潜ってしまった。 「ちょ、なんで見て」 「なんでって、寝顔可愛かったから」 「俺の寝顔っ、なんて、見てたって……」  ふと、気が付いた。君がどうして野良猫に似てるって思ったのか。 「楽しかったよ?」 「っ」  君は大事にされることに慣れてない。可愛がられることに慣れてない。ただの猫、じゃなくてさ。名前があって、迷子にならないようにと首輪だったり、柵だったり、心配されて、大事にされて、膝の上を独占できるような、そんな可愛がられ方をしてきてないからだ。 「睫毛長いなぁとか、髭生えてないんだなぁとか」 「……」  ふと君がじっと俺を見つめた。隠れるのも忘れて、俺のほうを見て、手を伸ばす。顎のところ。 「髭……生えてる」 「そりゃね。痛い?」 「ううん。痛くない。くすぐったいけど。昨日はなかったのに。夜のうちに?」  君は今までどんなセックスをしてきたんだろう。どんなセックスの痕を残して朝を迎えていたんだろう。 「俺、毛、薄いからあんまり髭生えないんだ」  複雑な感じだ。粗暴で自分勝手なセックスじゃなければいいと思うのに。誰よりも俺が一番君を大事に抱けていたらいいと思ってしまう。 「たしかに、ここも薄かったもんね」 「ちょっ! どこ触ってっ」 「……うん。触っちゃった」 「っ、ン、朝……っ、だからっ」  今まで、君が迎えてきた朝一つ一つよりもずっと優しい朝ならいいなと願ってしまう。 「あっ……ン」 「毛が、ふわふわだ、柔らかい」 「ちょっ、照葉さんっ、そんなとこ、キスしなくていいって! あんたはっ、男、対象外、だった、ンっ、だからっ」 「抜くだけ……」 「ぁっ、ン」  柔らかい毛にキスをして、掌で扱いてあげると、君の声が途端に甘くなる。 「や、もっ……」 「公平?」  脚を大きく開いて、キスをする度に腰を浮かして、掌の中で気持ち良さそうにペニスを擦り付ける君が、手を伸ばして、俺に触れた。 「朝、だから、じゃなくて」 「?」 「こういう朝の感じ、初めてで、わかんないっ」 「……」  君が迎えてきた朝、一つ、一つ。 「照葉さんは、その、したくならない、の?」  それよりすっと。 「照葉さんは、朝、とかしたくない? なら、触、んないで……朝から、セックスしたくなる、から」 「っ」 「でも、したくなる? 朝は、ダメ? ぁっ……ンッ、ぁ、ぁ……照葉さんの、硬い」 「そりゃ、ね」  ゆっくりと君がうつ伏せになって、手を自分の背後へと伸ばす。 「ここ……」  そして、昨日何度も打ち鳴らした、尻たぶを掴んで広げた。 「まだ、柔らかい、から、ぁっ……ン、ぁ、あぁああああぁぁ!」 「っ」  広げた孔へローションを垂らして、指を入れると、たしかに柔らかくて熱くて、頭の芯が蕩けそうになるほどだった。くちゅりと布団の上で昨日散々聞いた音を立てて、中を濡らしていく。それを手伝うように揺れる細い腰が艶かしくて。 「あっ、ン、も、照葉さんの、太いの、欲し、い」 「っ」 「ダメ?」 「ダメなわけない」  指を抜くと、挿入しやすいようと腰を少し高くするから、ヒクつく孔が丸見えで、喉が鳴る。まだ広げたままでいる手に手を重ねて、そそり勃ったペニスをあてがった。 「あぁぁっ」  くぷりと潜り込む先端。ズブズブと飲み込んで、俺の形に広がる君の内側。 「あ、ぁっ……照葉っ、さんの……ンっ、ぁ、硬くて、気持ち、イイ」 「っ」 「あぁぁあっ、ンっ」  昨日あんなにしたのに。 「あぁぁっ、あっン……ん」 「っ」 「あの、ね。照葉さんっ」  腰を打ちつけられて、仰け反る君が振り返った。瞳を濡らして、頬を赤くして、セックスしてる時の濡れて艶めく唇を開いて喘ぎながら。 「バック、楽で好き、だった」  君は今までどんなセックスをしてきたんだろう。 「相手の顔とか気にしなくて、っ、いいし、俺も、顔、見られなくて済む、からっ」  けれど、君が迎えてきた朝、一つ、一つ、それよりずっと。 「でも、照葉さんっ……ぁ、あっンっ」 「俺ね、ずっと、触りたかったんだ」 「っ、ぁっ……?」 「君の寝癖」  いつも、後頭部のところがぴょんって跳ねてるんだ。柔らかい髪をしているから、手で直せばすぐに戻るんだけれど。それを直してみたいって、触れる事を許されたいってずっと思ってた。 「あ、あぁァっ」  朝、誰にも見られないうちに、君よりも早くその寝癖に触れてみたいって。 「ァ、ァっ照葉さんっ」  その寝癖にキスをしながら、願ったんだ。君が迎えてきた色んな朝の中で、この朝がずっと優しいものならいいなって。 「あっ、照葉、さんっ」 「ここ、いつも、跳ねてるんだよ」 「あ、ァ、ああああああっ」  突き上げる度に跳ねるその髪にキスをした。横向きに丸まって眠る君の寝癖に、そっと唇を寄せてきつく抱き締めた。

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