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第32話 さぁ、笑い合おう、抱き合おう

「さぁ、夜も遅いし、俺の布団においでよ………………いや、なんだそれ」  考えすぎて、なんかあれこれ考え込みすぎて、「夜も遅いし」から「俺の布団においでよ」までの間に挟むべきあれこれが省かれすぎて、意味わからないだろ! 「さぁ、寝ようか」  いや、それこそ、おやすみなさい、とか公平のことだから素直に言いそうだろ。っていうか、さっきから、毎回冒頭に出てくる「さぁ」ってなんだ「さぁ」って。日常会話でそう使う頻度高くないだろ。」 「さぁって!」  もうそこからして滑ってるだろ。  じゃあ、もっとダイレクトに? 例えば、「しよう」とか? いや、なんか色気も何もないだろ。かといって、なんかロマンチックなのとか俺には到底無理だし。 「…………」  二回目に、誘うのって、どうすればいいんだ。 「はぁぁぁぁ」  いつもは二人で食事をする大きい卓袱台に向かって思いきり湿りっ気のすごい溜め息を吐きかける。早く決めないと、そろそろ公平が風呂から出てきてしまう。先に風呂を済ませて来てと言われて、またカラスの行水のごとく、けれども大事なところはしっかり洗って、出たけれど。  居間にいれば、風呂から自室のある二階へ上がる際に必ず通るからと思って、ここで待ち伏せてるけれど。  けれど。  二回目へのスマートで素敵な誘い方が見つからない。  今まではどうしてたっけ?  二回目以降に俺はどう誘ってたっけ? 「……」  よく思い出せないんだ。というよりも、あまりそこまで考えてなかったのかもしれない。その、今までお付き合いしてきた女性達にはとても申し訳ないけどさ。  公平のこととなると、もう、右往左往のしどろもどろだ。本当に。 「あ……お風呂、ガス止めたよ」 「はぁー……」 「おやすみなさい」 「はぁっ、あ! え? ちょ、公平っ?」  溜め息を垂れ流し続けてた間に、君がこっそり二階へ続く廊下を通ってしまうから。声がとてつもなく小さいから、もう少しで聞き逃してしまうところだった。 「こうっ、…………」  慌てて君のことを追いかけて、居間から廊下へと飛び出したら。 「……あの、照葉、さん」  君が襖のところに寄りかかっていた。部屋から零れる明かりは襖で遮られ、廊下の明かりは消していたから薄暗く、頬が赤くかどうかわからなかったけれど。俯いた君の表情は、ドキドキしてそうだった。 「あ……の」  俺と同じように。 「今、居間で、ずっと君を今夜どう誘おうか考えてた」 「ぁ、それで、駄洒落」  ハッとしないでよ。そんなだ駄洒落で誘われて、君は頷いてくれるの? そんなダサい誘い方でさ。 「違うけど、でも……」  でも、もしも君がそんな駄洒落で誘ってくれたら、俺は、君の何もかもを愛しく感じながら、キスをしたと思う。 「っ、ん……照葉、さん、あの」 「?」 「まだほぐして、ない。するの、照葉さんの、指が、いいって思って」  こんなふうに優しく、でもゆっくり濃く、抱き締めながらキスをした。 「ひゃあぁッン」  ほぐすのを自分の指じゃなく俺にして欲しいと、服を引っ張って俯きながら、抱き締めて欲そうに身を縮めて言われることの破壊力たるや。 「ぁ、ぁ、ぁっ、ン、そこ、ぁっ」 「ここ?」 「んんんんんっ、ぁ、だめっ」  中ある少し変わった感触のところ。そこを指で押すと、背中を反らせて、君は甘い声を上げた。  指の付け根まで君の中に収めて、中を掻き乱すと、四つん這いになった君が切なげに俺の枕に縋りつく。零れる声はとても無防備で、この前よりもずっと甘い。そんな声を上げながら、無意識なのか、君は、広げた脚の間、ピンク色のペニスの先をシーツで擦って気持ち良さそうに、指をそのお尻の孔で締め付ける。その姿がすごく可愛くて、喉が鳴った。 「あ、やだっ、噛んじゃっ」  美味しそうで。 「あ、あ、ダメっ」  指をくちゅくちゅ音を立てつつ出し入れしながら、ほんのりと快感に色づいたお尻の肉を甘噛みすると、孔がすごく切なげにしゃぶりつく。絡み付いてさ。 「イっちゃう」  欲しい欲しいって、甘えるんだ。 「いいよ、イって」 「ぁ、あっ、や、だ……照葉さんっ」  揺れるお尻、艶かしくくねる腰。振り向いてこっちを見つめる官能的な瞳。 「照葉さんと、がいい」  そして、キスで赤くなって濡れた唇が切なげに俺の名前を呼ぶ。 「ン、……ふ、ぁっ……ぁ」 「っ、公平っ」 「あ、ぁっ」  撫でて撫でて、と夢中になって擦り寄る猫みたいに、君が甘えてくれる。その仕草一つ一つが、愛しくて、愛らしくて、キスをしながら。 「あ、あぁッンっ……熱いの、来た、ぁっ」  細い腰を掴んで貫いた。 「あっ……ン、くぅ……ぁ、やぁっン」  甘い悲鳴に、蜂蜜みたいなやらしい音が君の中を抉じ開ける俺のペニスに絡みつく。 「あ、あっ、ン、ン、んんっ」 「公平っ」 「あ、照葉、さんっ、ン、ぁっ……ね、ぁ、ン……して」  本物の猫みたいに背中を反らせて、頭の後ろで俺に擦り寄りながら、自分の腰も器用に揺らす君のおねだり。 「ぎゅって、して」  君の白く華奢な指が、して欲しいって、一緒に握って、やらしく扱くんだ。 「あ、あぁぁああっ、ン、照葉さんの、手っ」 「公平……」 「ン、ぁ……ィ、く」  二回目のセックスは、初めての時よりも君がやらしくて可愛かった。 「あ、あ、あ、っあ……ぁ、ン、あっ」  それとあったかくて。 「ぁ、照葉さん、ィくっ、ぁっあっ……ィく、イくっ」 「っ」 「あ、あ、あ、あぁああああああっ」 「っ……」  君が、嬉しそうだった。 「いっぱい、出ちゃった。照葉、さん、の、手、べとべと……」 「あぁ、すごい、可愛かった」 「うん。照葉さんも、可愛かった」 「は? 俺が?」 「ン、可愛かったよ?」  言いながら、お風呂に入ったばかりの君が柔らかい黒髪を汗で湿らせて、艶っぽく笑う。くすくすと笑って、キスをする。 「可愛いのは君のほうだ」 「えー? 照葉さんだよ。すごく、可愛かったもん」  すごく、君が、楽しそうだった。 「いやいや、可愛いのは、君」 「ね、あのね……」  額を摺り寄せて、セックスの余韻に掠れた声でそっと。 「俺、好きだよ」 「……」 「照葉さんとする、セックス、大好き」  そっと、そんなことを打ち明けて甘いキスをして、とても幸せそうに笑ってる。  君とした二回目のセックスは、なんだかそんな、事後のさきっぽまで楽しい笑いで満ちていた。

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