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焼いたもち編 5 愛されてるバカ野郎

 自覚はあるんだ。 「あっ……ん、照葉さ、ん」  君に愛されてるって自覚。それから――。 「ダメっ、今日、お店ある、ってば」 「うん」 「あ、やぁっ……そこ、齧るの、ずる、い」 「うん」  それから君に夢中すぎて、君のことがとっても大好きで、バカな野郎っていう自覚もね、あるんだけど。 「あぁっ……んんん、胸、や、気持ち、いっ」  あるんだけど、自分自身を諭すこともできないくらい、君が好きなんだ。 「あっ……ん、寝ないとっ、だってば、まだ朝早いっ、照葉さんっ」 「うん」 「寝て、ってば」 「うーん……寝れそうにない、かな」 「!」  ね? 無理そうでしょ? だってさ、君があんなに怖がっていたスマホをこんな時間に嬉しそうに見つめてたんだ。ほかほかに心地いい布団の中で嬉しそうに笑って、俺の寝顔を写真に撮ってたなんて知ったらさ。無理だと思わない? ね、公平。 「あ、あ、あ、あっ、ダメってば……ぁん、も、照葉さんっ、の、欲しくなっちゃうってば」 「うん」  困った顔をする君を抱きしめて、その額に、コチンって額をくっつける。もちろん、すでに起きて元気溌剌なバカな自分の身体もくっつけて、君に許しを乞うんだ。 「公平」 「あ……寝ないと、お店っ」 「公平」 「あ、ダメ、そこ、指っくぅ……ン」  君の懇願が甘い音色に変わる。 「あ、あ、あ、照葉さんっ」  君の中が、まだ、昨夜っていうより数時間前の余韻の柔らさを残した中が嬉しそうにヒクついてくれる。  ね、公平。 「あ、寝不足、になったらダメ、なのに、欲しく、なっちゃうってば」 「うん」 「照葉、さっ……ンン」  堪えるように真一文字に結ぶ唇にキスをした。舌を差し込んで開かせて、乞うように君に柔らかい舌に絡みつかせる。弄って、唾液を零してしまわないようにしながら何度も深く君の舌を可愛がる。 「も、ズル、い……照葉さんの、キス、ダメなのにっ」 「ダメ?」 「じょ、ず、すぎ。気持ち良くて……ん、んんっ、ン、ふっ」  ねぇって、舌先で乞うんだ。 「あ、照葉さんっ、ぁ……ああっ……んんんっ」  そして君の舌が答えるように絡みついて、その腕が俺の首を引き寄せてくれた。 「あぁぁぁぁっ」  自覚はあるんだ。 「あ、ん、好きっ、あ、もっと、照葉さんっ」  君にすごく愛されてる自覚。 「あれ? 今日、店員さんは……」  ほぼ毎日このくらいの時間帯。お昼のピークはとっくに過ぎて、そろそろ店の片付けをして、夜の準備を……なんて暖簾をしまいかける時間帯にやってくる。 「すみません。今日はお休みをいただいてまして」 「……そ、なんですか」 「いつも、お世話になってます」 「あ、いえいえっ」 「おかげで、買ったばかりのスマホをスムーズに使いこなせてますよ」 「えっ! 買ったんですか?」 「えぇ」  あまり意地悪な笑顔になってないといいなぁ、できるだけ、ちっさな器の自分が露呈しないように大人の笑顔を作って見せてるけど、どうかな。できてるといいんだけど。 「メニュー、何にしますか?」 「あー、じゃあ、えっと」  無理かなぁ。俺、公平のこととなるととってもバカな野郎だっていう自覚、あるからなぁ。 「そしたら、シラスと大葉のおにぎりと、あときのこの炊き込みご飯おにぎり」 「はい、かしこまりました」  笑顔がおかしいことになってないことを願いながら、朝の俺の元気にたくさん疲れさせてしまった公平のお昼ご飯は何にしょうかと考えていた。  そうそう、公平のスマホ、俺しか連絡先が登録なかったの、けっこう嬉しかったんだけどね。 「はい。いえ、いつもそちらから電話貰っちゃって……すみません。でも、はい。話せて嬉しいです。はい……ありがとうございます。また送りますね……はい」  最近、増えてしまった。二件目に登録されているのはなんと。 「はい。おやすみなさい。お、お……母さん」  うちの両親だ。っていうか、まぁ仕方がないんだけど、一緒に住んでる俺に公平が電話もメールもすることなんてないわけだけど、それでもほとんどがうちの親からの着信にメッセージってどうなのでしょうか。なんて、小さなヤキモチがポコポコ発生してたりはする。  しかも、うちの両親と話す時の公平の嬉しそうな顔ったらさ。 「あ、照葉さん、こっち向いて」  ホント、可愛いんだ。 「また写真ゲット」  俺の写真を撮っては嬉しそうに保存して、おーい、こっちに本物いますよーって言いたくなるくらいにそれを眺めてさ。うちの両親にもそれを送っているらしい。そんなに我が子の、しかも成人済の奴の写真なんていらないだろうに。 「ねぇ、公平」 「?」 「送るならさ」 「え? うわっ!」  君を引き寄せて、君が宝物のように最近肌身離さず持ち歩くスマホを君の手ごと持って、カシャリとシャッターを押した。小さな画面いっぱいに写ってるのは、俺の顔と、その顔にぴったりくっついてる君の驚いた顔。 「こっち送ってあげなよ」 「わっ! 俺、すごいブス」 「そんなわけないじゃん」  君は世界一の美少年なんだからさ。そしてピンク色に染まる美味しそうな頬にキスをした。 「公平はいつだって可愛いよ」 「! な、ななな、何言って」  そして今度は慌てふためく唇にキスをする。俺もスマホ、持ち歩こうかな。そしたらさ、君のこの可愛い顔を写真に撮れるしさ。 「もう……照葉さんはっ」 「仕方ない。公平が大好きなんだから」 「っ」  愛されてる自覚ならある。それから君のことに関してはバカな野郎だっていう自覚も。それから――。 「あ、永井さんから電話だ」 「は? なんで、あいつと連絡」 「だって照葉さんが電話しても繋がらないからって、永井さんが……」 「はぁ?」  どんどん君の世界が変わっていく。怖かったものが怖くなくなって、繋がって広がって、そしてさ。増えるんだ。嬉しいこととか、楽しいこととか。二人で増やしていくんだ。 「あ、今度鍋パーティーしようだって」  それからもう一つ。 「何鍋がいいかなぁ、ねぇ、照葉さん」  とっても幸せだっていう自覚なら、結構、かなり……ものすごくあるんだよ。

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