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誘惑〜裏での取引〜
【人物紹介】
・久坂春樹:理央とは幼馴染で、恋人。Ωの新人記者。後輩の雅人が理央を狙っていると思い、ライバル視している。
・宮地理央:春樹の事が大好きな大型わんこキャラ。エステティシャンで、経営している店で問題が発生している。α。
・大神雅人:薬品会社の御曹司で、弁護士をしているα。春樹達の後輩で、ドS。欲しいものは手に入れる主義。理央の件で、春樹とも再会する。
・月野裕樹:理央の店の年下従業員。可愛い顔で女性客から人気。理央に言い寄るが相手にされない。Ωであることを利用する性格。
「ハル、まだ辛い?」
既に三回もイったのだが、Ωの発情は簡単に収まってくれない。理央にしがみつき泣きながらもっとと願ってしまう。
「発情鎮静剤ですぐ楽になるから」
大神製薬で発売されている発情期鎮静剤はΩにとって必需品となった。発情期を普通より早く終わらせることができる薬のおかげで、今まで職に就くことが難しかったΩは一週間も休まずに済み発情期による解雇も減った。春樹も仕事が出来ているのはこの薬のおかげだった。
「ナカが疼いて、理央、ごめん」
「泣かないで。僕はハルが大好きで本当ならもっと一緒にいたいんだ。でも、発情期が終わったら腰やナカを痛めて辛いことも知ってるから」
春樹の涙を拭い頭を撫でて身体を拭いた。発情期中は汗もかくため慣れた手つきで着替えさせる。タオルで拭いただけでもピクピクと反応し、乳首はピンと立っていた。
我慢我慢と気持ちを抑え、理央は仕事の用意をする。
「なるべく早く戻ってくるから」
「うん、っ、理央、ありがとう」
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「理央さん、昨日慌てて帰りましたけど大丈夫ですか?」
店に行くと既に従業員である月野が開店準備をしていた。仕事の手際がよく、可愛い容姿に女性客からも人気がある。昨日も大神が来て急いで出たため店の戸締りや後片付けも任せてしまった。
「ああ、大丈夫。昨日はごめんね、任せちゃって」
「お客さんもあれから来なかったんで平気です。もっと頼ってくれていいですよ!でも、ご褒美は欲しいな」
「月野くん」
着替えていると月野が背中に引っ付いて猫撫で声で話してくる。これがなければいいのにと思うが、経営状況が悪くなってきた今は辞められてしまうと困るし仕事も評価している。キツく言い返せず無視すると、ズボン越しに己のモノを当ててくる。以前注意するとただ引っ付いているだけだとはぐらかされたので無視に限るのだ。
「理央さん、冷たいなぁ。恋人のために我慢しちゃうんですか?」
「月野くん、僕は」
「恋人にゾッコンな理央さんも好きですよ」
振り払おうとすると離れ、ニヤニヤしながら倉庫へ行ってしまう。理央は溜息をつき身なりを整えた。
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発情期が終わり春樹は家で仕事をしていた。
「大物政治家とΩの乱交パーティーで見出しはいいか」
先輩が調べた内容は軽く纏める作業を任され、パソコンで打っていく。記者という仕事上、Ωが事件に巻き込まれる話はよく耳にする。春樹もバニーちゃんの格好をして潜入したこともあるが、札束を胸元や尻へ捩じ込もうとするαもいれば、他の客の前でダンサーのΩに卑猥なポーズを取らせ笑うαの光景を見た時は腹が煮え繰り返った。昔は普通のことで、Ωは愛人になったり性を売る職業について生活費を稼いでいたのだから、改善しつつあるのはいいことだ。だが、まだ権力のある者はΩを好きにしている。
携帯が鳴って表示を見ると、後輩の名前だった。ストーカーに襲われた時、最新の着信に電話がかかったため、恥ずかしいところを見せてしまった。
「大神か」
電話に出るのは気まづいが無視する訳にはいかない。
「もしもし」
「大神です。もう体調は大丈夫なようですね、いつもの嫌そうな声で何より」
携帯ごしに笑っているだろう大神が目に浮かぶ。
「あの、さ。前は助けてくれてありがとう」
「貴方から御礼を言われるなんて明日は雪が降りそうだ」
「可愛くねえ奴」
「私に可愛さを求められても。貴方の方が可愛いですよ」
「ああ、そうですかー。で、理央の件どうなったんだ?」
「この前のストーカーは逮捕されましたが、まだコラージュ映像の犯人は捕まっていません。あと久坂さん、危ない案件抱えていませんか?」
「何のことだよ」
大神が告げた名前に言い澱むと電話口からやはりという声が聞こえる。
「手を引いて下さい。敵わない相手です」
「何か知ってんのか?」
「仕事で会ったことはあります。この話は宮地さんの件を話しに行った後でいいですか?」
大神は悪徳政治家とつるむ友人Aを知っているかもしれないと約束を取り付けた。
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「大神の奴、遅すぎる」
理央は心配しないでと言うが、やはり店まで行った方が良かった。
約束の時間になっても大神が来ないので迎えに行くと理央の店の従業員が目に入る。
「いらっしゃいませ」
「えっと、俺は客じゃないんだ。理央、あっ、宮地と大神の友人で約束があったから来たんだ」
「友人、ですか。まだ、お話してますので、中でお待ち下さい」
店に来たのは一回だけで、中は詳しく見たことが無かった。スタッフルームに通されたが、エステの店だからかいい匂いがした。
「いい香りでしょ。理央さんが選んで買ってきたんですよ」
理央と呼んでいるのかと少し気になったが、フレンドリーな理央の性格から考えるとそんなものかと納得させる。
コーヒーを差し出され受け取る。
「この匂い」
「どうしました?」
「いや、何でもない。コーヒーありがとう」
受け取った時に部屋の香りに混じって理央のフェロモンの臭いがした。近くにいるから付くのだろうか。
「友人じゃないくせに」
ボソッと呟かれた声に気付かず理央のことを考えていると、椅子の下に携帯が落ちている事に気づく。先程の従業員かと思い拾うと、画面には音声ボタンの表示があり、タイトルには『理央さんと♡』と書かれていた。
「なんだよ、これ」
押してはいけないと分かっているのにボタンを押してしまう。
『理央さん、僕、仕事が』
『そっちは後でしておくよ。こっちに来てくれる?』
『あっ、待って、店でするなんて、誰かにバレたら』
『少し顔が赤い?』
『分かってるくせに。ぐちゃぐちゃに濡らしてるのは理央さんの、あっ、やっ、触っちゃ』
『まだ練習が必要かな』
『ナカまで指が、かき混ぜないで、欲しくなっちゃう』
『いっていいよ』
その後の従業員の嬌声が信じられなくて、他のフォルダを見るが他にもいくつか情事中の音声が入っていた。
(そんな、理央が他の奴となんて)
αには複数恋人がいてもおかしくないが、理央は違うと思っていた。しかし、今は受け止めきれなくて黙って店を後にした。
★★★★★
「言われた通り、あの音声データ聞かせましたよ」
月野はとある人物からの電話を受けていた。春樹が帰った後携帯を回収したのだ。
「普通の会話を録音して、俺のあの時の声と繋ぎ合わせるとかいい趣味してますよ」
月野が仕事で抱かれた時の音声を電話の相手は持っていたのだ。冷静であればよく聞くと分かる編集なのだが、少し前に襲われ、信じていた恋人の匂いが他の男からしていた時点で罠にかかったも同然だった。
「協力しましたから、こっちはこっちでしますんで」
月野は何事も無かった顔で店へと戻ったのだった。
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