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(13)二度目の凍結
「ひかるーっ ひかるー!」
紫之が光を呼んでいた。
キッチンにいる光の唇にいびつな笑みが浮かぶ。頬を叩いて顔を作りながら紫之の部屋へ走る。
「紫之、どうした?」
光の方へ差し出された紫之の手からスマートフォンがぽろりと落ちる。
ベッドの上だったので、液晶は無事だ。
だが、またアカウント凍結の表示がされている。
紫之が両手で顔を覆って大声で泣き出した。
「駄目だ。もう駄目だ。世界中が僕をいらないって言ってる。邪魔だって。もう嫌だ。誰も僕を必要としていないっ」
光は壊れ物を抱くようにそっと紫之を包み込む。
「そんなことないよ。ここに俺がいるじゃないか」
「でも、でも、世界のどこかで、僕のことを邪魔に思ってる人がいる。僕のアカウントを凍結させて喜んでる人が。僕はいらないんだ。いちゃいけないんだ。いらない、いらない、いらない!」
「俺には大切だよ。大切なたったひとりの家族だよ。愛してるよ、しの。この世で一番愛してる」
力を込めて抱きしめると、額にキスをした。こめかみに、顔を覆う指にキスをした。
「この世のすべてがしのの敵に回っても、俺だけはしのを守る。誓うよ、俺の大切な天使。顔を見せて」
紫之の震える手がゆっくりと下ろされる。
「愛してるよ、しの」
紫之の唇に唇を重ねる。
「なぜキスするの、兄弟なのに」
しのの目に涙がたまる。
「愛しているからだよ、俺はずっと前からしのだけを愛してた」
「受験二度も失敗する馬鹿なのに?」
「そうだね。でもあれはしのががんばりすぎて体調を崩したからだよ」
「浪人してもいいって言ってもらったのに、引きこもった駄目な奴なのに?」
「休息が必要だったからだよ」
「うつ病なのに?」
光はゆっくり紫之をベッドに押し倒した。
「病気で何が悪い? 病気の人は悪人か? 辛いことを知っている人の方が他人に優しくなれるよ」
紫之の涙がこめかみに伝う。
「愛してるよ、しの」
唇を合わせ、舌でこわばった紫之の唇を何度もなめる。
「大人のキスをしよう、しの」
「怖いよ」
「やさしくするよ」
「ひかる……」
わずかに開いた歯列のすき間から舌をねじ込む。身を固くする紫之の髪を撫で、角度を変えながら唇をやわらかく動かし、緊張をほぐしていく。縮こまっている紫之の舌をからかうようにくるくると舌先でくすぐる。
おずおずと紫之の舌が光の舌に応えるように、ぎこちなく絡んできた。
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