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(12)細工

(ふーん、鋭人って奴とメールアドレスの交換をしたんだ)  光は紫之のスマートフォンをチェックする。  鋭人は田中春良という本名も晒しているし、企画に熱心で展示を自ら主催する真面目な作家であろうことも理解した。 (でもダイレクトメッセージやメールで直接繋がられるのは厄介だ)  厄介な物は潰す。  幸いSNSのタイムラインで鋭人が今起きていることはわかった。  メール作成画面を起動して、光は入力し始めた。 『初めまして、式部こと桑原紫之の弟、桑原光と申します。  実は兄はうつ病を患っており、現在状態が悪化傾向にあります。家族としてはしばらくナイフを遠ざけたいと考えております。本人は企画展のお誘いに非常に乗り気なのでかわいそうなのですが、兄がお受けした企画展はお断りさせていただけないでしょうか。  またナイフを持たせても問題なくなりましたら、本人がSNSに作品をアップすると思います。その時に誘ってやっていただけると大変ありがたく思います。  なお、このメールは本人を興奮させないため兄には内密に送っております』  二、三の挨拶の言葉を足してメールを送信すると、返信はすぐに届いた。  持病があるのは聞いていたこと、非常に残念ではあるが事情を理解したこと、明日の朝、本人宛にこちらの都合が悪くなったという形でメールを送ることが書かれていた。 (さて、後は――)  ケルベロスのヘッダー画像を、新たな画像に変更する。  紫之のフォロワーは海外の人間も結構いる。こんな時間でもエロ画像を見つけて通報してくれるだろう。  やることをやって、そっと紫之の部屋にスマートフォンを届けた。 (しのはどんな反応を示してくれるかな)  光は兄の花弁のような唇に軽くキスをして、静かに部屋を出た。

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