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(15)籠

 切り絵を捨てた紫之は両親を失ったときのように無気力になった。  一日中うとうととベッドで過ごし、夜中は眠れずぼんやり過ごしているようだ。  光は定期的に濃密な口づけと、紫之を手淫と口淫でいかせ、快楽を仕込んでいった。  今夜もローションを指に絡め、後孔に挿入しようとする。だがまだ簡単には紫之は受け入れてくれない。 「大丈夫だよ。もっと気持ちよくなれるようになるだけだ」 「こわい」 「痛くしないよ。ゆっくり体の力を抜いて」堅いつぼみのような体に何とか指を差し入れたものの、そこを探るのは手間がかかった。すっかり馴らした佐藤の体とは大違いだ。 「ああっ」  紫之の胸が跳ね上がった。体ががくがくと震えだした。 「ほら。感じるだろう。これがしののイイところだよ。無理はしないよ。一本ずつ指を増やしていこう。そうしたらもっといい気持ちになれるから」  紫之は光のパジャマにかじりついて、光の指に支配され身を震わせる。 「光も、よく、あ、なる?、ん……」 「ああ、しのも俺もよくなるよ。もっともっと楽しめるよ」 「抱き、しめて。ひっ、そうしたら……」  細い紫之の体を抱きしめると、紫之が光のパジャマの中に手を差し入れた。 「大きい……」  ぎこちなく下着の上からさすってくれる紫之の顔を愛おしげにのぞきこむ。  衝動に任せて抱くことはできるが、光はそれをしなかった。紫之の怖がりな心を傷つけたら、せっかく時間をかけて慣らしてきたのが元も子もない。  ドーベルマンをわざと放したのは光だ。先に追いつかれるのは紫之だとわかっていた。  犬に抑え込まれ、噛みつかれた紫之の姿にぞくぞくしたのが初めての性的な快感だった。股間に確かな欲望の兆しを得た。  ケルベロスが天使を組み敷き、翼を折ったのだ。神聖な存在を蹂躙する悦楽に恍惚としたのだと今はわかる。  同時にあの瞬間から、紫之を自分のものにすると光は決めていた。  十六年。  十六年かけてやっと紫之を自分だけのものに囲い込むことができた。もう放さない。一生、紫之を閉じ込め、愛し続ける。  そもそも自分たちの名は紫式部と光源氏から取ったと祖父から言われたが、光は信じていない。 (紫之の名はおそらく紫の上――いや、まだ無垢な若紫か)  これからじっくり時間をかけて光好みに育てていく。

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