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③ 聖なる場所での淫らな時間

 ☆★☆ 「兄上……兄上……っ! やめて……っ! やめてください......っ」 『その時』  ユリウスは、本棚に手をつかせたエルンストに覆い被さるようにして、抱きしめていた。  帝国一の蔵書量を誇る、カレンベルク家の大図書室、最奥だ。  帝国が誕生して、千年。  当時から帝国は各地をそれぞれの領主が統治し、その上に皇帝が君臨している。  現在でも次々に近隣諸国が併合されて行く強い国家だ。  一方で、あまりに種類雑多な人種と習慣を受け入れたために、宗教を統一することは難しかった。  かつては、神との契約により発動し、天地をも揺るがす奇跡の御業『古典魔法』も廃れて久しい。  現在。  明かりを灯したり、火を起こしたり、飲み水の確保などの生活に必要なことは、古典魔法に頼っていなかった。  人類が世界をつぶさに観察して得た知識を元に使う技の『新魔法』……別名『科学』というもので成り立っている。  科学が発達し始めたからと言って、昔ながらの生活が大きく変わったわけではない。  一般庶民は井戸を使って水を汲み、煮炊きには、森や山で拾った薪を使う。  交通手段も、徒歩や乗馬、精々馬車といったところだ。  それでも最近では、火薬で山を崩してみたり、石炭を燃やして出来た蒸気で鉄の船を動かしたり、大勢の人間を馬より早く運ぶことのできる乗り物も出来たとか。  古典魔法では、伝説の大魔法使いでさえ出来たかどうかわからなかったことが、新魔法『科学』には、出来る。  しかも科学は、知識さえあれば、本人の才能も、神への信仰がなくても使えたため、帝国を中心に、あっという間に全世界に広がった。  結果。  帝国自体は無宗教国家になり、神官、教皇など、おおよそ神がかったものに対する役職が皆無になったのだ。  神の代わりに尊いものとされたのが『知識』だ。  人類が日々研究、研鑽を重ねた成果を綴った新魔法の元になる『書籍』の類が重宝された。  そんな世界のただ中で、カレンベルク家は、代々帝国の頭脳としての役割を担う貴族だ。  身分的には皇族の次ではあるものの。歴代の皇帝の戴冠を担う賢聖の家系だった。  ずっと皇族に寄り添い、帝国の歴史を支えてきたカレンべルク家の収蔵図書は極めて多い。  世界にあまねく存在する本の原本や、写本を収集して作りあげたカレンブルクの大図書室は、大量の書籍を収蔵していることで有名だった。  帝国の地理の変遷、歴史、最近まとめられた科学の書だけではない。  他国の神学、医学、博学、今は廃れた古典魔法や詩歌の類にも留まらなかった。  最近発明された活版印刷で刷った、安価で増産できる紙の本。  身分を超えて、誰にでも手に取って読むことが出来る思想、小説等の娯楽誌にも及ぶ。  人類の英知の結晶が貴族とは言え、たった一家の持ち物であり、一般には公開していないため、保存状態は完璧。  きちんと管理され、背表紙が綺麗に揃った本が、人の背丈の何倍もの本棚に収まる様子は、まるで神殿であるかのような犯しがたい神聖さと荘厳さがある。  様々な歴史と人類の知恵の全てが詰まった本を抱いて(たたず)む本棚が広大な地下室を埋めつくしているのだ。  建設当初は整然としていた図書室も、増築を重ねるうちに迷宮のようになっていた。  そんな図書室でのこと。  兄のユリウスに剣技の試合に負け、数学の試験で劣ったエルンストは『お仕置き』を受けようとしていた。  いつも物差しで打っていたエルンストの手は、今日に限って剣技の試合でケガをし、血が滲んでいる。  もちろん軽傷だったし、傷は清潔なガーゼで拭われ、適切に処置をしたので、しばらくすれば跡も残らないだろう。  それでも、そこに改めて『お仕置き』は、誰の目からしても気が引けた。  だからと言って、尻を物差しで直接叩かれるのも、結構痛い。  しかも、エルンストの『お仕置き』は、今日の二回分の他にかなり溜まっていた。  今まで散々負け続けて増えてしまった分を全部なくす代わりに、別なことをしないか、とユリウスに誘われ、これ幸いと『うん』と頷いたのが、いけなかったのか。  ユリウスの冷たい手が、エルンストの肌に触れた、と思ったとたん。驚いて抵抗する間もなく、両手を素早く縛られ自由を奪われた。  相手は、心身全てがエルンストより優れ、今の今まで信頼し、尊敬していた兄なのだ。  大きな声で助けを呼ぶことはできなかった。  いいや、どんなに叫んでも無駄だろう。  図書室の持ち主たるカレンベルク家の息子達が、勉学のために誰も入るな、と命令すれば、普段管理している司書たちは有休休暇が手に入ったのと同じだ。 『勉学の時間』が何時間になろうともあえて入って来る者はいない。  司書は臨時の休暇にほくそ笑んで退室。  一応飲食禁止になっているため、どんな時でもすかさず茶を運んでくる給仕も、執事もやって来ない。  出入口も遠く、図書室内の出来事は、誰の耳にも入らない。  声を立てれば、何事かと護衛が飛び込んで来る寝室よりも、秘密の遊びをするのに、これ以上うってつけの場所はなかったのだ。  そんな場所で、エルンストを辱しめる淫らな儀式は、始まってしまったのだ。  エルンストのシャツのボタンは、あっという間に全部外され、胸の飾りをユリウスに弄ばれる。 「ん……ふぅっ……くっ……!」  強くつままれば、痛みしか感じないはずなのに、ビリリとした刺激の奥底で、エルンストは別の何かを感じていた。  強い快楽ではない。  けれども、ソレが『何か』を知りたくて、身悶えるような焦りを感じる。  中毒性のある変な感覚で、気がおかしくなりそうだった。  気を許すとどっぷりと浸かり、身動きが取れなくなってしまいそうな淫らな刺激が嫌だった。  エルンストは必死に『止めて』と懇願したはずなのに、ユリウスの手は、更に敏感な場所へと移動した。  ズボンのベルトが外され、下半身を覆うモノが下着ごと全部足元に落ちてわだかまる。  裸になったエルンストの足は、肩幅まで開かされ、突きでた尻には、ローションが塗られた。  そしてユリウスの指が、すりすりと動き、自分の双丘の間を行ったり来たりし始めてもなお、エルンストはわが身に起きたことが信じられないでいたのだ。  ユリウスの指の行き先の内、前の突きあたりで、エルンストの二つの果実を揺らし、後ろはまだなにも受け入れた事のない花をくすぐっている。  そんな事をされて、エルンストが最初に感じたのは、快楽ではなく、恐怖だった。  ユリウスの手は、エルンストの胸を弄んだまま、下肢の最奥に触れる。  菊花のようでありながら、普段他人には絶対に触らせない場所をユリウスの指が、上質で滑らかなローションを纏ってくるり、くるり、と円を描いたのだ。  ユリウスの指が掠るたび、ぞくり、ぞくり、と、これまでに感じた事のない何かが、エルンストの背筋を這いまわる。  いてもたってもいられない、もぞもぞとした感覚が更に高まって、エルンストが『あっ……』と高く声を上げれば、ユリウスが笑う。 「……なんだ、もう感じたのか? エルンストは、敏感だな……そもそも欲望に貪欲なヤツだとは思っていたが……」 「か……感じてなんて、ないよっ……!  それに僕は。欲望に貪欲なほど、下品なヤツじゃない!」  エルンストの言い分を聞いてユリウスは目を細めた。 「……そうか?」 「そうだよ!」  必死の返事に、ユリウスは、「ふーん」と、生半可にうなづいた。  エルンストの答えをまるで、信じていないのだ。  なぜなら、ユリウスが触れれば触れるほど、エルンストの花はヨくなっていくのだから。  じわり、じわり、と、蜜を滲ませながら、花は、素直に柔らかくなって来る。  やがて、もの欲しげにヒクリ、ヒクリと騒めき出したエルンストの花の中心に、ユリウスはくい、と中指を一本突き入れた。  その途端。  エルンストは、女のような嬌声を上げると、背筋を大きくしならせた。 「うぁっ……あああんっ」  胸の刺激で半分立ちあがりかけていたエルンストの肉の剣には、力がこもり、天を向く。  同時に、エルンストの花が、ぎゅうと閉まり、ユリウスの中指を握りしめた。  その様子に、ユリウスは、エルンストの耳元でくくくく、と笑った。 「これを『感じていない』って?  喘ぎ声の混じった嬌声は『気持ちイイ』って啼いて聞こえるぞ?  それに、お前の花は、俺の中指を喰いしめて離さないのに?」  そう言って、ユリウスが、エルンストに突きさした中指をかすかに動かした途端だった。  エルンストの背筋にやるせない快楽が貫いた。  狂ったように腰を振ったのは、ユリウスの指から逃れようとしたか……それとも、もっと刺激が欲しかったのか?  どちらにしろ、ユリウスの指を喰い閉めたまま、揺れて動くことになったので、余計に刺激が増して、追い詰められたエルンストは、喉も割けよとばかりに叫んだ。 「ひ……っ! やっ……もっ……もう…止めてっ! 許して……兄上…っ!!」 「おや? 前立腺でもかすったか?  そんなにイイ反応をしてくれると、俺は嬉しいが……ここは図書室だと言うことを忘れるな。  お前の声が響けば、司書が飛んでくるかも知れないな」  どんなに騒いでも誰も来やしない。  それは、ユリウスが一番よく知っていたが、あえて口に出してみれば、エルンストの方は、青ざめた。  こんな……兄弟同士で淫らな遊びをしているなんて、間違っても知られたくなかったのだ。  自分の醜態をさらすことよりも、兄の名に傷がつくことを恐れて、エルンストの声が小さくなる。 「兄上……っ…そんな激しく……動かさな……」 「俺は全く動いていないさ。  自分で動いて、勝手に感じて、騒いでいるのは、エルンスト自身だ。  胎内に触れて、()がるなんて、全く女みたいだな」  ユリウスは、そう言って笑うと、今まで胸を弄んでいた手を、射精寸前まで勃(た)ち切って震えるエルンストの肉の棒に触れた。 「エルンストが『女』だとしたらこんなもの、要らないよな?  しかも、このままじゃ、我慢の足りないお前だからな……  勝手に白濁を吐いて貴重な書物を汚しそうだ」 「いっ……やっ! 兄上は……何を……っ」  エルンストにとっては、いつの間にかのことだった。  ユリウスが、腕を軽く振り、袖口から、ひゅっと短剣を取りだすと、抜き身の刃を、エルンストの性器に押し当ててささやく。 「いい機会だから、コレ、この場で取ってしまおうか?」  もし『うん』と言ったら、本当エルンストの性器を切り取ってしまいそうだった。  そんなユリウス迫力は、じわじわと押し寄せる快楽に勝ったのか、どうか。  息を飲むついでに喘ぎ声と、次の言葉を飲み込んで固まるエルンストを見てユリウスは、笑った。 「怖がるんじゃないよ、莫迦なヤツ。愛しい弟を俺が傷つけるわけないだろう?」 「愛しい……弟? それは……一体誰の事を言ってるの?」 「本当に、莫迦だな。  俺には、エルンストしか弟は居ないはずだ。  ……母上が亡き後、父上が、別の女と子供を作ったけれど、それは女の子だ。  『弟』とは、言わない」  当たり前の事じゃないか、と言うユリウスに、エルンストは激しく首を振った。 「ウソだ……っ! 本当に兄上が僕の事を愛している、と言うのなら、こんな酷い事をしないはずだ!」  叫ぶエルンストに、ユリウスは首を傾げた。  そして、笑う。 「酷い? 俺はお前にそんなことはしていないさ」

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