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④ 愛と言う名の凌辱
……ウソだ!
エルンストの心の叫びを見透かすように、ユリウスの目が淫らな光を込めたまま笑う。
「愛しい愛しい愛しい、俺のエルンスト。
俺がお前を傷つけることは、ありえない。
心も身体もなにもかも」
「ウソ……だ…っ」
ようやく絞り出したエルンストの声は、喘ぎ声に上書きされる。
ユリウスは、生贄の身体を弄びながら、その耳元でささやいた。
「俺がお前のことをどんなに愛しているか、伝わらないとは……仕方ない。
具体的に見せてやろうか?」
冗談なのか……本気なのか。
ユリウスはくくく、と、喉の奥で笑うと、先ほど細身のナイフが出てきた袖口から、すっ……と、細い銀の棒を取り出した。
太さは羽ペンの先ぐらい。
先は丸く、滑らかで、長さは30㎝あるか、どうか。
ユリウスはそれに軟膏をつけると、そのままエルンストのペニスに突き立てた。
つぷ、という未知の感覚に、エルンストの背筋がヒヤリと凍る。
「うぁ……っ! 兄上っ、兄上……兄さんっ! 一体何を……やめて! やめて!」
「動くな、エルンスト。怪我をするぞ」
戸惑いと混乱で、エルンストの口調が幼くなる。
格式ある貴族らしい『兄上』呼びから『兄さん』と変えて懇願する弟を、ユリウスは一言で黙らせた。
そして慣れた手つきで銀の棒を操作すると、細い棒はまるでそれ自身が生き物のように、エルンストの狭い尿道を容赦なく突き進む。
「う……あっ、あっ、やぁっ……」
ずっ……ずっ……ずっ……と。
背筋が凍るような感触がリズムを持って続き、食いしばったエルンストの口から、うめき声が漏れた。
普段は水分の排泄だけに使うそこを、滑らかな固形物が無理矢理侵入し、犯している。
屈辱感と、固形物が侵入してくる違和感に、エルンストはおかしくなりそうだった。
軟膏がたっぷり塗ってあるからか、どうか。
侵入を受けているエルンストに痛みは感じなかったが、背筋を這い上がるぞわぞわとした感覚に、太ももが勝手にプルプルと震えだす。
そんなエルンストの様子を見ても、ユリウスはかまわなかった。
細い棒を前立腺の直前まで到達させると、絶妙な場所で固定する。
エルンストがピクリとでも動くと、棒の先がかすって、やるせない刺激になった。
「ひっ……く……くく」
エルンストの喉が鳴る。
恐怖で。
あるいは、快楽の予感に期待して。
これ以上されたら、自分の大切に守ってきたプライドを粉々に砕いてでも快楽にハマってしまうだろう。
貴族の子弟として、決して許されない類の堕落だ。
罪を伴う未知の恐怖から逃げ出したい理性と、もっと続きをしてほしいと願う本能の間に立って、エルンストの身体は、無意識に動く。
「あ……あああぅ」
途端に、尿道から入り込んでいる金属が、また前立腺をかすって、気が狂いそうな刺激になっていた。
「う……あ……ああ……っ」
ざわり。
神経に直接届くような刺激に怯え、動きが完全に止まったエルンストに、ユリウスは笑う。
「ああ、エルンストらしい良い反応だ。でも、これで終わりなんかじゃない、もちろんな」
ユリウスは半分独り言のように呟くと、自分の着ているズボンの前を緩める。
そして、既に『剣』と言っていいほど硬さの増した自身の肉の棒を、エルンストの胎内へ導く花に押し当てた。
ユリウスは、その怒張した欲望で、自分を刺し貫こうとしてる。
本気で女のように犯す気なのだ、と。
遅まきながら兄の意図を感じたエルンストから、血の気が引いた。
同じ顔なら、カレンベルク家当主で優秀な兄の方が良いに決まっている。
社交界に出ても贔屓は兄ばかりだ。
エルンストは、いつも前を行く兄に追いつくべく、勉学と鍛錬が忙しかった。
まともな恋愛はしてこなかったけれども、エルンストの好みは、可愛い女の子のはずだった。
丸く柔らかい身体は、儚く、抱き締めて守るものだ。
身分が高いエルンストが結婚となれば、カレンベルク家にとって有利な貴族の令嬢を嫁に貰うことになるのが常識だ。
この世に、男女の性しかないと信じられていた時は、同性愛は禁止だった。
しかし男女の他にα、β、Ω性がある事が判ってから、常識が、変わる。
同性でも子どもを残すことが出来る、可能性がある以上。
男同士、女同士の恋愛や、結婚を前提とした付き合いは一応禁忌では、なくなったのだ。
そして、庶民はともかく、身分の高い貴族の間では、財産と地位の分散を防ぐための緊急措置だと認められれば、近親婚も無し寄りの有りではあった。
皇帝から許可を貰い、次代の子供は、血族なら六等身以上離れて結婚すること、等の条件を飲めば、出来なくもない。
だからと言って、まさか。近親である、男である、兄、ユリウスの欲望を受け入れる日が来ようとは、エルンストは、夢にも思ってなかったのだ。
「いやだ! やめて! 僕は、女じゃな……っ! く……ぅ」
本気で逃げようとする腰を掴み、ユリウスは、容赦なくエルンストの中に侵入する。
良く解した入り口に、ケガも痛みもエルンストには感じられなかったが、問題はそこではなかった。
ユリウスのことは、心から尊敬し、愛してたのだ。
けれども、貴族の男であるにも関わらず、支配される、という屈辱には、エルンストは我慢が出来なかった。
なにもかにもを受け入れ、守られるのではなく、ユリウスと共に肩を並べて困難に立ち向かいたかった。
なのに、身体を完全にユリウスに支配されてしまうなんて。
普段排泄するべき場所に、存在感を増す肉の杭を無理矢理受け入れ、エルンストから涙が出てきた。
嫌がるエルンストの様子と涙にユリウスは、一瞬淫らな行為を止めかけ……しかし、何かを振り払うかのように首を振ると続きを始めた。
「……く、う」
「……!」
狭い胎内に、ユリウス自身を潜り込ませるたび、エルンストの身体は微妙に揺れる。
たったそれだけの、前立腺をかする刺激にエルンストは、声を出せないほど悶え狂った。
本人の意思とは関係なく、エルンストの花は絡みつくように閉まり、今までほとんど変わらなかったユリウスの息さえもが、上がる。
先ほどから、十分に解されてきたエルンストの胎内の居心地が、相当良かったようだった。
エルンストの方は最初から、入ってくるユリウスの猛々しい肉の剣を迎え入れるだけの余裕はない。
無理矢理入って来たユリウス自身を、息も絶え絶えに飲み込んで、その後。
更に貫く最後の一押しが、一気にエルンストの前立腺を刺激して、様子が変わる。
侵入してきたユリウスの方は、満足げな吐息をついたにも関わらず。受けるエルンストの方は、魂が消えるかとも思えるほどの絶叫になった。
「ああああああ……!」
根元まで、ずっぷりと刺し貫けば、確かに前立腺をいい具合に刺激する。
貫抜いたユリウスの肉の剣は太さ長さのサイズは、双子の弟であるエルンストと変わらない。
けれども、生まれて初めて侵入を許したその場所は、計り知れなかったのだ。
過剰なまでのエルンストの反応に、ユリウスの口の端が歪む。
その表情が、どこか悲しげな微笑の形だということを、エルンストは、まったく気がつかなかった。
ユリウスが、自分の背後から覆いかぶさり、犯しているため、純粋に顔が見えなかったばかりではない。
自分に襲い掛かる狂気じみた快楽と戦うのに必死だったのだ。
前立腺という敏感な場所を前から器具で突かれ、後ろからは、ユリウスに責め立てられて、エルンストの人間らしい理性は、はじけ飛ぶ。
「うああああああ……! やめ……っ! 苦し……前の棒っ……抜い……」
「何を言っている? それがあるからいいんじゃないか。可愛いエルンスト。女の子みたいに後ろだけで、イってごらん?」
ユリウスは言って、身体を緩やかに動かし、エルンストの胎内を行き来した。
ぐじゅ、ずぶ、ずぼっ……
蜜をたっぷり含んだ淫らな音が、静かな図書館の中で、響きわたる。
これは聖なるものを、完全に踏みにじる行為だった。
今まで信頼しあっていた兄弟の絆だけではない。
知識を最も尊いとした帝国と、その知識の番人となったはずのカレンベルク家の二つをこれ以上冒とくすることはないのだ。
例え、皇帝が認めても、人としての心が許さない、罪。
頭をよぎるそんな思いさえも、快楽を煽るものの一つになり下がる。
身体を無理矢理揺さぶられるたびに、前の棒がざわりと触れてエルンストは、半狂乱に頭を振った。
どうにかして、強すぎる快楽から逃げようとして失敗し、また悦 びの餌食になる。
「うううっ……! ああああ……!」
口の端から涎 とうめき声を垂れ流し、腰を振る姿は、どう見ても凌辱者であるユリウスから逃げているとは、思えなかった。
むしろ、刺激を感じれば感じるほどに更に、快楽を求めて足掻く、獣にしかみえない。
刺激を求めて、めちゃくちゃに腰を振り立てるエルンストを御すように宥めながら、ユリウスはいっそ優しげ、と言っていい声を出した。
「ああ、エルンスト。お前は、なんてみっともなく、浅ましいのだろう?」
「……!」
ユリウスの声に、エルンストにわずかに理性が戻りかけた。
しかし、ユリウスが乱暴にエルンストの胎内を肉の剣で二、三度かき回しただけで、その場所は大喜びでざわめきだす。
天を向き、本来なら欲望の白濁をたっぷり吐いて終わりになる行為も、穴を塞がれては、先が見えない。
そして、何度か声の限りに叫んだある時。
ぷつ、と音を立てて、エルンストの理性が壊れた、途端だった。
狂った本能は、如何に効率的に快楽を貪ることができるのか、しか考えられなくなる。
エルンストの両目は、快楽の熱でうるみ、とろんとした表情は、ユリウスにつぐ賢さを誇る普段の姿とかけ離れていた。
「あう……あう……もっと……激しく……やめないで……」
快楽に負け、うわ言のように呟くエルンストに、ユリウスは、いっそ優し気な声を出した。
「ああ、いいともエルンスト。
可愛いお前の頼みならいくらでも良いことをしてやるさ。
……ほら俺は、とてもとても優しいだろう?」
臆面もなく『自分は優しい』と言ってのけ、ユリウスは、腰を振りたてた。
そう。
エルンストを犯すユリウスの方も、また。
自ら被った無表情の仮面の下には、理性を熱で蕩かせた一匹の獣を飼っていた。
だから、エルンストの望むままに、激しく腰を振り立てるユリウスの、これが……こんな事が『優しい』事の証明になるのだろう。
例えそれが、理性に照らし合わせれば『理不尽』としか言いようがなかったとしても。
欲望に蕩けて狂ったエルンストに、お前の兄は、優しいか? と、聞いたのなら、素直に『うん』と頷くだろう。
燃えるようにその身を焦がす悦楽と引き換えに、もっと淫らなことも、反吐の出そうな醜態もさらすだろう。
ユリウスには、エルンストの状況を誰よりも良く判っていたのは、もちろん。
二人が良く似た双子だったから。
そして……
そして、エルンストをこんな器具 で犯す行為でさえ、子どもの遊びとしか思えない。
凄まじい凌辱を受けなければならない運命があることを、ユリウスは知っていたから。
「あっ、あっ、あっ、もっと、もっと……っ!
あああん……っ、んんっ……っ、イイよ、気持ちいい……っ」
快楽にむせび泣く自分の分身を容赦なく犯しながら、ユリウスは、闇より昏 く微笑んだ。
「……堕ちたな、エルンスト。
だけどもその姿は、俺しか見ない……絶対に誰にも見せない……だから」
……許してくれ。
そんな祈りにも似たユリウスの言葉は、誰の耳にも届かなかった。
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