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⑩ 奇跡の対価

「職務とはいえ、ユリウスさまの肌に触れることが出来るのは、至上の悦びです。  ……神に感謝を……」 「エロ神なんかに祈るのはやめろ、バルド。  縁起でもない……んっ、う」  バルドはユリウスの足に口付けをした後、ユリウスに覆いかぶさり、抱きしめた。  陰部と、足と。  不浄とされる場所をしゃぶるように愛しんだバルドの唇が、ユリウスの唇を奪うことはない。  しかし、バルドがユリウスの首筋に顔を埋め、乳首に向かって丁寧に舐めれば、快楽がじんわりと広がってゆく。  身を焦がすような凄まじい刺激ではないが、やるせない刺激が憎い。  半立ちになったユリウスの欲望に、バルドは新しく戒めをつけた。  前立腺に届くような長い器具ではない。  装着しても、細いリングがカリのすぐ下を抱きしめるように巻き付き、一センチに満たない長さの金属棒が、鈴口から尿道に入り込むだけだ。  尿道を塞ぐものではあってもその侵入は極短く、ただ、欲望から溢れる精子をせき止めるだけの栓でしかない。  前立腺を直接刺激していた先ほどの長い器具よりも、身体にかかる負担は明らかに低いはずだった。  けれどもユリウスは、無表情で固めた仮面に亀裂が入りそうなほどに、動揺する。  器具としての凶悪度は、短く小さいこちらの方が高いのを知っているのだ。  ユリウスのすぐ隣でノアがからかう。 「おや? ユリウスさまは、怯えていらっしゃるのですか?」 「そんなことは、ない。  時間が無いのだろう? 早く、続きを……うっ……く」  急かされて応えるべく、バルドの凶悪な片手は、ユリウスの胸の飾りを執拗に触れて(いじく)る。  もう一方の手が胎内を押し広げ、入って来た。  ぐじゅ……ずぼっ……ぐじゅ……  エルンストに命令されて十分に舐められたユリウスの穴は、少しの刺激で、やわやわと解される。  バルドの太い割に器用な手が胎内で踊り、我慢できなくなったユリウスは、たまらず押し殺した声をあげた。 「んっ……くぅ……っ」  声と一緒にユリウスの雄の象徴が立ち上がると、新たな器具も、その機能をいかんなく発揮する。  ユリウスの分身に力が籠るにつれ、バルドにつけられたリングが亀頭部を絞り出すように締め付けたのだ。  何もしなくても一番敏感な場所だ。  絶妙にうっ血した欲望の先端は、僅かな刺激を全部拾い、全てを快楽として、ユリウスの脳髄に直撃する。 「う……う……ひ……あっ……あ」  バルドの手は、胸と、後ろの穴を弄るのに忙しかった。  熱い唇でさえ、首と乳首を甘噛みし、吸い上げる。  器具任せに放置されたユリウスの欲望の固まりは、密着しているバルド自身の硬く立ち上がった雄の象徴と腹筋とに触れるだけだ。  なのに、人の血の通った肌が先端と擦れあうたびに、やるせない刺激が吐精感を伴ってユリウスを襲う。  その刺激で、ユリウスのペニスを大きく立たせ、リングが更に欲望をせき止めた。  前立腺から直接止めるわけではない。  竿の中口一杯まで欲望が満たされ、詰まっている。  意外に重い白濁の質量感が、改めて前立腺にありえない負荷を掛け、尿道を圧迫していた。  ジンジンとした心臓の拍動と一緒に、今にも出そうで出ない不安定な欲望が揺れる。 「……うっ……く……はっ……あっ、あっ」  息は取り繕う間もなく上がり、せり上がる吐精感にユリウスは、気がおかしくなりそうだった。  全てをいっぺんにぶちまけてしまいたい。  欲望を解消する事が出来たなら、どんなにすっきりと楽になるだろう。 「イク、イク……イキ……たい」  欲望を吐いて、イって、全てから解放されたい。  我慢できるなら本当は、言葉に出したくもないらしい。  食い縛った口の端から漏れる、切実に、切羽詰まったユリウスの当然の要求を聞いて、ノアが歪んだ微笑みを向けた。 「そうですね。  精液は、あまり長い間、身体の中に留めて良いものではございません。  私が楽にして差し上げましょう」  すぐ傍に改めて跪くノアの様子に、ユリウスは蒼ざめ、鋭く囁いた。 「やめろ……っ! やめてくれ! 触るな、ノア!」  明らかに怖れ、悲鳴じみた声も空しく、ノアは、ユリウスに装着された器具を弄り、何かを調節し始めた。  すると。  今まで、ぴったりとペニスの先端、鈴口から尿道に侵入し、一滴たりとも漏らさなかった器具の先端から、ジワリと白濁を滲ませた。  こんな、緩やかな吐精では、身体から精子が破棄されたとしても、解放感は全くなく、性的に満足できるわけでない。 「や……!」  ユリウスは、反射的にノアの手を振り払おうとして、バルドに抑え込まれた。  そしてノアは、容赦しなかった。  器具を絶妙にずらし、不気味なほどに静かに、作業を行った。  ユリウスの吐精感を解消させることはなく、溜まった精液を搾って(しご)き出したのだ。  ゆっくり精液を排出させる、ミルキング、という手法だった。  重くペニスに溜まった精液を全て処理すれば、イキたいのに、吐けるモノがなく、ただ欲望だけが取り残された、しなびた肉塊だけが残った。 「ああああ」  イキたくて、イキたくて、イキたくて、イキたくて。  狂おしく吐精し(イキ)たい気持ちは叶わずに、身体を震わせれば、力をなくしたユリウスの分身がぐったりと後からついて来る。 「ふふふ、可愛い。こうなってしまったら、新たに快楽を感じてペニスを()たせないことには、と吐精も開放(イくこと)も無理でしょう?  良かったですね。  この状態で、新たな性的刺激を受ければ、血流が上がってモノも大きくなる上。  快楽も倍、それ以上に跳ね上がります。  ……証拠に、ね? バルド?」  ノアの合図で、バルドは、ユリウスの乳首を口に含み、かりり、と甘く噛んだ。 「あっ――あああ!」  バルドに受けたささやかな刺激がたまらず、ユリウスは絶叫をあげる。  同時に彼の分身もまた、回復したのだが、新たな精子を無理矢理注ぎ込まれる感覚が凄まじく、ユリウスは、目を見開いた。 「く……あ……あっ……」  ミルキングを受ける前より、陰茎の血流が上がる。  限界を超えた欲望が、はち切れんばかりに膨れて起こる震えは、ユリウスの身体全体にまでに広がった。   「ダメだ……もぅ……ダメ……イく」  とうとう、ユリウスにも真の限界が来たようだ。  ユリウスに痙攣が(はし)ったのを見て、ノアはバルドに合図を送った。  バルドは頷き、ユリウスをエルンストが眠る長椅子の端で四つ這いの獣の姿にする。  そして、長椅子に座るノアを挟んで両手をつかせ、自分はその熊にも似た巨体を可憐で華奢なユリウスに乗ってきた。 「う……あ……っ」  大きすぎるバルトの屹立が、その先走りだけを頼りにユリウスの花の中に侵入してくる。  ヌ……ッ  穴は、良く解されているとはいえ、蜜で滴っているわけでは無い。  明らかにサイズ違うそれの侵入に、本能的な危機を感じ、ユリウスは虚勢をかなぐり捨てて怯えた。 「や……っ……く……」  ユリウスが本人の意思とは関係なく、ほとんど無意識に逃げを打つのをバルドは難なく止めると、狭い胎内を押し広げつつ、最奥を目指す。  メリメリメリメリ……ッ  身体を引き裂くような不気味な音が鈍く響く。  花が良く解してあったとしても『それ』は大きさすぎたのだ。  ユリウスの体格を考えれば、当然とも言えた。  構造的な限界でギッチリと詰まり、本来なら一歩も中に入らないものが、バルドのテクニックで無理矢理、ユリウスの胎内に侵入してくるのだ。  カレンベルク家の性技を支えるバルドが、君主の血の一滴でも出させるような怪我をさせる事はない。  それが判っていたから、どうだというのだろう?  重量感を伴う危険な行為である事実と、爆発的せり上がって来る快楽に、ユリウスは首を激しく振るだけで声も出ず、代わりに凌辱者のバルドが短い呼吸を繰り返す。 「う……くっ、くっ」  そう、どんなに大きなものでも、挿入できるように。  そして、犯してくるものを返り討ちにしてしまえるほど、相手に至上の快楽を与えられるように調教されたユリウスの身体が、真価を発揮したのだ。  良くうねるユリウスの極上の身体は、それを作り上げる一端だったバルドでさえ、例外では無く惑わし、魅了する。  分身を締め付けるうねりに、バルドは、耐えがたいほど甘い痺れを感じていた。  性の導き手である職務の仮面がはがれて堕ちる。  回避を許さないユリウスの身体に溺れ、バルドは、言葉を紡いだ。 「ああ、ああ、ユリウスさま……ユリウスさま……っ……お慕いしております。  敬愛しています。  愛……愛……しています……」  獣の形で両手をつくユリウスの胎内に、自身の大きな分身の全てを後ろからずっぷりと収めたバルドが呻く。 「けれども、あなたの心は……手が届きません。  せめて、許された身体だけでも……わたしに……お貸し……下さい」  バルドは、ユリウスの胸の飾りを、ギュッと摘まんだ。  すると、それに合わせるかのように、バルドを包み込んでいたユリウスの胎内が閉まる。 「くぁ……っ、はっ、あ」  自身が無意識でやっている動きに耐えられず、ユリウスがガクガクと震えながら腰を振れば、その衝撃で、バルドの精が放たれた。 「「ぅああああああっ……!!」」  ユリウスが叫んだのか、バルドが上げたのか。  両者は、獣じみた雄叫びをあげて、熱い欲望を放ち、受け入れた。  だが、これでは、誰にとっても終わりには、ならなかったのだ。

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