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⑤ 激高の果て

「陛下……私は……『無垢』……です」  荒い吐息を抑え込み、ベッドに縛られたまま。  両手をついた獣の姿で、明らかな偽りを言い放つ、青年。  見上げるユリウスの姿に、皇帝は背筋をゾクゾクとさせた。  ユリウスは、美しかった。  そして、あまりに淫らだったのだ。  パウルがユリウスの蠢く花を指先で押せば、身体の奥からかき集められた白濁が、先ほどよりはっきりと流れ出た。  誰とも知れない男に犯され、注がれた白濁を、更なる快楽を切望するひくつきと同時に、ツ……ツ……と太ももに纏わせ、垂れ流す。  なのに自分は、無垢だと言う。  言葉の真逆の甘く、濃密な淫猥さにパウルはくらくらと目が回り、酔いそうになっていた。  凄まじいユリウスの色気に当てられて、寒気にも似た感覚が、パウルの背筋を走って下半身を直撃する。  パウルは、二、三回喘ぐと裏返った声を出した。 「よ……よくも、まあ、ぬけぬけと!  被虐の悦びに耽るほど、孔を使い込んでおいて、何を言う!  挙句、他の男の欲望を咥え込んだ証を垂れ流しながら、まだ無垢、と言い張るか!?」  声高に叫ぶ皇帝に、ユリウスは、媚薬の凌辱を受けた瞳のまま『はい』と頷いた。 「エルンスト! そなたは、なんというヤツだ!」  厚顔無恥め! と叫ぶパウルはしかし、嬉しそうだ。  これで、美しい獲物をいたぶる加虐の言い訳に、困らないからだ。  叙勲式を前に、陛下の寝室へ参上する心得の書が存在する、というのも確かで、その中に無垢であれ、という一文があるのは、あまりに有名な一節だ。  ……しかし。  皇帝の寝室に初めて呼ばれる心得の書を、丹念に読みつくしたユリウスは、苦しい息の下で、花が咲いたように笑顔を変えた。 「心得の書には……『どこが』無垢であれとは……書いておりません。  私が……誓って『無垢』だと言い張れる場所は……『心』で……ございます」 「何だと!?」 「陛下に……ご満足していただくため……身体は……少しばかり……いじってまいりましたが……心は……好きな……相手にしか……捧げません」  だから自分は無垢だと言い張るユリウスの口上に真実味が宿る。  実際ユリウスは、嘘をついてなかった。  カレンベルク家当主の調教として、身体を臣下に凌辱されるままにしてるのは、千年前から行っていることで、全ては仕えるべき皇帝の為だ。  無垢なる象徴として、一途に愛する者を思う心も本物だ。  ただし、ユリウスの無垢を捧げる相手は、皇帝パウルではなく、双子の弟、エルンストに、だという所だが。  不敵なユリウスの表情に咲いた花が、清楚な無垢の花なのか、淫らなあだ花なのか判らない。  『真実』のありかを図りかね、皇帝が唸り声をあげた。 「そなたは、またしても小賢しいことを!!!!」  しかし、皇帝の目の前にいるのは、既に皇帝自身が何度も抱いて(けが)し、多少の不敬な軽口をたたいても許す『ユリウス』ではなかった。  皇帝が最初に手を付けて汚す権利を持った、哀れな生贄(エルンスト)のはずだった。  なのにお楽しみを奪われ、パウルは(いか)ったか。  いや。  例え、相手が真にユリウスだったとしても、それからパウルのしたことは、全く同じだったろう。  そう。  皇帝パウルは、束縛され痛みを訴える相手に、より性的興奮を覚える厄介な性質だったのだ。  縄と棒で身動きを封じた無抵抗な獲物を前に、何もしないでただ素直に抱く選択肢など、なかった。  使い古しを差し出されたという、不敬が明らかになった今。  激高の赴くまま、と言うより、パウルの嗜好のままに、痛めつけ、打ち据える気で満々だ。  城内の人間ならば誰でも知ってる皇帝の嗜好を満足させるため、鞭は壁を飾る彩りとして、あちこちに設置されている。  並べられた鞭の中で、最適な凶器を、パウルは激怒に頬を染めたまま、しかし喜々として選び出した。  初心者の遊びで使うような先が何本にも分かれた、柔らかい鞭ではない。  さすがに一撃で皮膚を引き裂く、ガラスを編み込んだ獣の皮で出来た最強の鞭でもなかったが、絹を固く編んだ一本鞭だ。  しなやかで皮膚につく傷は浅いが、痛みは皮で出来たそれと変わらない。  そんな凶器を、ユリウスに向かって皇帝は振り下した。  容赦のかけらもなく、打ち据えられた先端が音速を超えて、ピシリと鳴った。 「痛ッ……!」  ユリウスの受けた痛みは、皮膚と肉を経て、身体の芯に染み通る。  しかし、媚薬によって肌に触れる刺激が、快楽に誤変換されている今、ユリウスに蓄積されていくのは、純粋な痛みだけでは無かった。  最初の皮膚を切り裂かれたような痛みの後は、ゆっくり麻痺して熱く燃え上がるような奇妙な感覚に堕ちる。  皇帝の手で勢い良く振り下ろされた絹の鞭が、ピシリ、ピシリ、と音が鳴るたび、鞭に打ち据えられた皮膚は内出血を起こした。  そして肌はみるみる赤く、やがて紫色に染まってゆく。  そして、重くなっていく頃には、痛みは、同等な強さの快楽にすり替わるのだ。  耐えられないほどに疼く甘い痛みに、ユリウスから、涙と喘ぎ声が零れて落ちた。  「ぐっ……う……はっ……あ」  鞭で打たれる度、膨れ上がる快楽に、身体が芯から蠢き狂う。  逃げ出せない重い快楽に、ユリウスの欲望が硬く屹立して、蜜を滴れさせた。 「やっ……はぅ……んっ……くぅ」  鞭で身体が揺らされるたび、甘い声が我慢できない。  満足に身動きが取れないまま、前からも後ろからも欲望の証を滴らせている。  欲望に身を焼いたユリウスは、とうとう双丘を割り込むように入って来た鞭に、アナルを直接打たれて、高く叫び声をあげた。 「うあうっ!」  悶えるユリウスの様子を見て、パウルは、目を細めた。 「痛みは辛いか?  ……いいや、甘く疼くようだな。  そんなに悦がられては、不敬の罰にならぬではないか」  パウルは、鞭打つ手を止めるとユリウスの腫れ上がった傷に触れた。 「う……っ」  痛みと連動する快楽に、そのまま射精するべく、震えるユリウスの性器の根元に、パウルは、リングを嵌めた。  カレンベルク家で使われた様々な道具と違う。  ユリウスの二珠と、竿を同時に拘束する輪は、ユリウスの欲望を絶妙なタイミングでせき止め、そして信じられないほどの痛みを施した。 「あっぁ――――っ!」  珠を潰されるような感覚に犯されて、ユリウスは獣じみた叫び声をあげた。  が、事は、ソレで終わりではなかった。  声を出す為に力が入り、きゅっと閉まったユリウスの花に、大きく凶悪な肉の剣が突き立てられたのだ。  グジュリ、ズボッ 「――――――――――っ!」  もはや、ユリウスに声は、無かった。  事前にバルトに散々犯された場所だ。  とはいえ、いい加減でも一応洗浄し『手土産』を得るため、奮闘した分、多少なりとも時間が経っていた。  しかも、直接鞭打たれた上、わざわざ孔を締めたタイミングで、パウルは一気に、ユリウスを貫いたのだ。  アナルは、切れて血が混じり、ユリウスの後孔から溢れるバルトの白濁が、薄いピンク色になった。  しかし、パウルの分身を飲み込んだ花は、傷ついてなお、ゆるゆると誘うように蠢き出す。  その刺激に、反射的に射精しそうになって、パウルは、奥歯を噛み締めた。 「これだけされても、エルンストには殆ど効かぬか。  余の為と称し、どれだけ使い込んで来たのか?」  異常な快楽に身を焦がすユリウスより、ただ乱暴に欲望を突き立てたはずのパウルの方が、あっという間に気を持っていかれそうだった。  快楽の波をいなすように、ゆるゆると腰を使いながらパウルは囁く。  しかし、皇帝を翻弄するユリウスの方にも余裕はなかった。  貫かれ、更に前立腺を嬲られる通常の快楽の他に、全身を苛む様々な痛みが、急速に快楽と成り代わる。  調教済みの身体は、勝手に皇帝を追い詰めてゆくものの、実際は相手の言葉に応えるどころか、息をするのもやっとだ。 「痛ッ……気持ちい……あうっ……ああああ」  痛みと快楽のために全身をガクガクと震わせ、悶え狂うユリウスの身体を確かめるように、パウルはだんだんと腰の動きを速めてきた。  ジュボッ! ジュボッ!  グシュ! ジジゥッ!  派手な水音をまき散らしながら、ユリウスの柔肉がパウルの欲望に絡みつき、閉まる。  ユリウスの胎内が作り出すあまりに気持ち良すぎる感覚に、口の端から唾液が一筋あふれ出て、パウルは、天井を仰いで、目を瞑った。 「ああ、ああ。悪くない。悪くないぞ。エルンスト!  そなたの身体は、ユリウスの代わりの肉袋としての価値はある。  使ってやるから、今後も余に忠誠を誓え!」 「……は……っ……うぅっ、あああ」  帝国に。  この世に生きる限り、誰も皇帝に『否』とは、言えない。  ユリウスの身体にすっかり夢中になり、皇帝は、自分勝手にガンガン腰を使って来る。  喘ぎ崩れた、ユリウスの口から『了』の返事らしい呻き声を聞いたパウルも、満足そうな唸り声を上げて、自分勝手に、白濁をユリウスにぶちまけた。 「くっ……!」 「あうううぅつ!」  射精の為一瞬膨張したパウルの分身に、快楽中枢刺激されたユリウスは、思わず声をあげた。  しかし性器に、射精止めの器具を施され、皇帝と同じ射精の快楽にはありつけない。  ユリウスは、皇帝の肉剣がグジュリと音を立てて出て行ってなお。  白濁を吐けないまま、良すぎて辛い空イキを何度も繰り返す。  両手を縛られ、身動きも取れず。  ぐったりとベットに前のめりに突っ伏しかけたユリウスの身体を、誰かが優しく抱きとめた。

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