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⑥ 服従の誓い
「ルードヴィヒ! そなたの出番は、まだだ!」
「そうだ! 皇族の中でも末尾の癖に!」
「皇帝がお楽しみの最中に割って入るなど、あってはならぬ」
ユリウスが手のぬくもりを感じた途端、辺りは騒然となった。
不機嫌な皇帝の声の他にも、複数の男たちの声が部屋に響く。
いつの間にか、数人の男たちがユリウスと皇帝をとり囲んでいた。
小姓たちでは無い。
彼らは皆、半裸に最高級の上着を羽織っている。
今夜、カレンベルク家の忠誠を得るため皇帝に呼ばれた皇族の男たちだ。
彼らは淫らに抱かれるユリウスの様子に、我慢が出来なくなったようだった。
皇帝が生贄の加虐に飽きたら、次は自分たちが凌辱するのだ。
ユリウスを貪ろうと、欲望でギラギラとした輩の中に、多少なりとも毛色の変わった者がいた。
拘束され、痛みを伴う凌辱の果てに、ベッドに倒れ込もうとしたユリウスを抱き締め、支えた青年だ。
ユリウスが最初にカレンベルク家を継ぐ時にはいなかった以上、『儀式』には初参加だ。
生贄を凌辱する順番を違えて肌に触れ、文句が出るということは、身分的にも皇帝の寝室に呼ばれるには微妙な線らしい。
忠誠の証と称し、カレンベルク家当主の柔肌を貪ろうとやって来たことには変わらないのだろう。
それでもユリウスに触れる手が、多少なりとも他とは違う。
欲望よりも優しさを感じたような気がして、ユリウスは相手の顔をのろのろと見上げた。
その瞳に映る青年は、まさしく皇帝パウルとの血縁だった。
まだ若い。
力強い男の体格でありながら、灰色の長い髪を女のように結い上げた姿が良く似合う。
赤い髪の皇帝パウルが太陽だというのなら、彼はまるで月光のようだ。
冷たく鮮烈な空気をまとい……しかし、心配そうにユリウスの顔を覗き込んでいる。
「ルードヴィヒ……殿下」
細いユリウスの声に、ルードヴィヒと呼ばれた青年は、うん、と頷いた。
「帝国医師の端くれとして進言いたします。
これ以上のご無理は、お控えくださいませ」
どうやら、ルードヴィヒは、医師――帝国の公衆衛生を司る立場にあるらしい。
加虐を止めようとするルードヴィヒの言葉に、皇帝は、険悪に眉をひそめた。
「ほほう? 余自ら家臣を鞭打つなどの野蛮な行いを改めよと申すのか?
こやつは、余に打たれるのに値する罪を犯しておる」
「はい」
「まず、小賢しく余に意見を申し立てた罪。
カレンベルク家、秘術の隠匿の罪。
加えて何より許せぬのは、無垢であるべき身体を、誰とも判らぬ男に開き享楽に興じた罪。
全て忠誠心を疑う重罪である。
余をないがしろにする不敬の罪で、処刑しても構わぬものを、鞭打つだけで勘弁してやっているのだ。
寛大な心を賞賛されても、諫 められる筋合いはない。
そなたも判っているはずだのう? エルンスト?」
言って、皇帝パウルはユリウスの横腹を蹴りあげた。
ユリウスは「うっ」と短く呻いて、抱き締められていたルードヴィヒの腕から転がり落ちる。
「皇帝陛下! これ以上の加虐はカレンベルク卿の命を縮めます!
更に凌辱を続けるというのなら、御慈悲を頂きたく……!」
ルードヴィヒが、ユリウスを庇う。
その様子にますます不機嫌になった皇帝は、鞭の先をルードヴィヒに変えた。
「うるさい! 偽善者め! ならば、エルンストの代わりにそなたが加虐を受けるがいい!」
ピシリと空気が鳴り、容赦のない一撃が、ルードヴィヒの背中を襲う。
ルードヴィヒが身に着けた薄い布は簡単に裂けて、白い肌にみみずばれが走った。
「うっ……!」
ルードヴィヒが痛みに呻く。
「殿下!!」
ルードヴィヒに庇われたユリウスは、必死に叫び……しかし、加虐者の皇帝は、一気に機嫌を直して、げらげらと笑い出した。
「思い出した!
ルードヴィヒよ。そなたの嗜好も変わっておったな!
確かに帝国、皇族の端くれながら、人を虐げ加虐するより、痛みを悦びに変え、興奮するクズ!
エルンストが痛めつけられるのを見て、自分も欲しくなったのか?」
「そ……そんなことは……」
ございません、と続ける気があったのか、どうか。
皇帝が鞭の持ち手の先で、クィ、と上げたルードヴィヒの顔は、明らかに痛みに耐える顔ではない。
先ほどの月光のような冷たい鮮烈さを一転させた顔は、気持ち良さげに蕩 け、うるんでいた。
鞭の一撃で、勃ったのか。
もぞもぞと腰を蠢かし、驚くほど大きく膨らんだ自らの欲望を撫で撫で、息を荒げ、甘く声を出した。
「陛下! カレンベルク卿は、痛み良さをまだ判っておりません!
こんな奴に神聖なる陛下の鞭は勿体ない。
代わりに私の背と尻に是非、太く痺れるような一撃をください!」
ルードヴィヒは、喘ぎ、自身のものをしごきながら、皇帝に向かって尻を差し出した。
彼の醜態に嗤いを堪えた皇帝が、神妙な面持ちを装って言う。
「この鞭は、罪を償わせるためのもの。
今は、余に要らぬ意見をほざいた罪で打ったが、早々そなたを打ち据えて良いものではない」
「そんな……」
明らかにがっかりとしたルードヴィヒに、皇帝は目を細めた。
「鞭はくれてやれぬが、代わりのモノを用意してやろう」
「ありがとうございます! 何でも! 何でも、謹んで戴きます!」
皇帝の言葉に、喜ぶルードヴィヒの姿は、まるで、ご褒美を欲しがる犬のようだ。
もし尻にしっぽが生えているのなら、千切れんばかりに振っていそうな男の醜態に、皇帝は、嗤いながら言った。
「ルードヴィヒのだらしない尻には、このエルンストの欲望をやろう。
本来ならそなたが忠誠の誓いで犯すべき、格下の相手に存分に犯されるがいい」
「まっ……お待ちください!」
咄嗟に声が出たのは、ユリウスの方だった。
言うに事欠いて、ユリウスがルードヴィヒを犯せ、という。
今にも決定されそうな皇帝の言葉にユリウスは蒼ざめた。
ユリウスにとって、自分の性器は、神聖だった。
カレンベルク家の当主として、散々性的な調教を受けて来たユリウスの身体に、今更、綺麗な場所は無い。
排泄に使うべき穴は、常に誰かの白濁で満たされている。
ユリウスがこだわる性器の竿も珠も、何度口だけでなく、途方もない様々なモノで犯され、無理矢理精を放って来たか判らない。
けれども、今までユリウスが自分の意思で犯したのは、エルンストが初めてだった。
これから先も、エルンスト以外の誰をも抱く気は無かったのだ。
穴は、いくら汚濁にまみれてもいい。
しかし、自分の分身だけは、穢れない。
それが、ユリウスにとっての最後の願い、矜持であったのに。
皇帝は、そんな思いさえ、簡単に打ち砕く。
「何か、不満か?」
低い皇帝の声に、ユリウスは目を伏せた。
ここで『嫌だ』と拒否しても、必死の願いが通じることはないだろう。
それどころか、ユリウス願いを皇帝が知ったのなら、もっと酷く残酷な方法で、ユリウスを貶めるに違いなかった。
だからユリウスは、辛い心身を抑え込み、何でもない事のように言葉を紡ぐ。
「いいえ、私に……何の不満がありましょう。
ただ、皇族の皆様は、あまりに高貴。
御身体を味わう栄誉に見合うだけの働きをしておりません。
また、ご威光を畏れて萎える私の粗末な一物は、きっとお役に立てないと」
「ふん、よもや男は抱けぬ、被虐を楽しむ変態は嫌だと喚くことは無いと思ったが、小賢しい断り方をしおって」
真意を見透かす皇帝の言葉に、ユリウスはドキリとする。
しかし、幸い当のパウルは、気にせず続けた。
「過ぎたる栄誉とやらは、そなたが正式にカレンベルク家を継ぐにあたってのはなむけだとでも思え」
「……はい」
「また、肝心なモノが萎えて勃たぬと言うのなら、余が自ら手助けをしてくれようぞ」
言って皇帝が取り出したものを見て、ユリウスは、口の中で呻いた。
それは皇帝の寝室に来る前、ユリウスがカレンベルク家の調教として、臣下のノアに使われた、凶悪な器具だった。
今、皇帝のベッドを汚さぬようにと、ユリウスに装着されてる珠と竿とを同時に戒めてる玩具モノより、大分小さい。
ペニスの先端。カリの付け根を抱き締めるように装着する金属は、細い。
尿道に入る長さも短いが、装着すれば、前立腺に負担とダメージを与えつつ、気が狂いそうになるほど確実に射精を制限してくる。
心の準備も整わぬまま、ユリウスの拘束は解かれ、凶悪な玩具は交換された。
そして息をのむ間もなく、パウルの怒張した分身が、ユリウスの胎内に再び侵入してきた。
「あっ! ああああ!」
媚薬に犯され、痛みに煽られていた。
しかも、一度皇帝の欲望を受け入れ、その欲望を放たれたはずなのに。
先ほどの暴虐は、それでも大分手加減していた、と言うのだろうか。
あっというまに回復し、怒張したパウルの欲望を再び突き立てられたユリウスの身体は、軋み、悲鳴を上げる。
先ほど痛めつけられた穴の入り口が更に広がり、薄かった血が濃く流れ、はっきりと太ももを伝うのを見て、皇帝は「まるで処女ようだ」と笑うばかりだ。
労 わることもしないどころか、皇帝は自らの欲望のまま、ガツガツと自らの腰を振り立てた。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
情け容赦なく突き上げられるたびに、壊れそうになる。
最悪な凌辱であったとしても、皇帝や皇族から刺激を受ければ、そこが屹立するようにユリウスは調教を受けていた。
自分の意思とは関係なく無理矢理快楽に支配され、震えながら勃ち上がるユリウスの分身に、ルードヴィヒがすり寄るように迫って来た。
「や……っ」
ユリウスが犯されるのを見ながら自分で解したならば、出来上がりすぎている。
ぬっとりと柔らかいルードヴィヒの穴が、ゆっくりとユリウスのペニスを包み込み、犯してゆく。
エルンストのために残した聖域だった。
そこは、そこだけは、奪われたくない場所だったのに。
「ああっ……いい、いいぞ、カレンベルク卿!
お前のモノは、太くて、かたくてゴリゴリする……っ」
喘ぎ、悦びながらルードヴィヒが嬲るようにユリウスの聖域を壊していく。
こんな男の肉など、少しも味わいたくなかった。
愛しいエルンストを抱いた時の心地良い胎内の記憶の上に、おぞましくぬめぬめとした感覚が上書きされていく。
「あっあっ……も……やっ……っ」
思わず震えたユリウスの反応を、どうとらえたのか。
ユリウスの孔に未だ欲望を突き立てたままの皇帝が、歓喜の声をあげた。
「おおう、閉まるぞ、エルンスト!
前も後ろも同時に犯されて、そんなに気持ちが良いか?」
皇帝がユリウスの後孔を貪り、前でもルードヴィヒがめちゃくちゃに腰を振り立てる。
「あっあっあっああああ」
ひたすら激しく、苦痛すら覚える快楽の嵐に、もはや、ユリウスになすすべはなかった。
涙をほろほろと流し、大きく口を開け、息を吸い込むことによって、何とか正気を保とうとしていたユリウスの顎に、更に別の男の手がかかる。
「陛下はカレンベルク卿を離さない。
皇族末尾のルードヴィヒもちゃっかり楽しんでいる、というのに。
皇子たる私は、いつまで待てばいいのだ?
……陛下。私にエルンストの口を使い、忠誠の義を執り行う許可を。
もう、我慢がなりません」
ユリウスは既に心身ともにボロボロだった。
アナルは皇帝の欲望を血の涙と共に受け入れていた。
ペニスは、たった一つの心の拠り所を壊しつつ、ルードヴィヒの肉を貫いている。
更にようやく息をついてる口腔さえも、犯し、汚すという。
その狂気としか思えない凌辱に、怯える気力さえ失いかけたユリウスに、皇帝は、残酷に頷いた。
「ああ、これ以上時間がかかれば、明日の儀式に支障が出るか?
構わぬ。存分にするがいい」
皇帝の赦しに、皇子はヒステリックに笑うと、その巨きな欲望を、ユリウスの口をなぶるようにゆっくりと押し込んだ。
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