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第9話
その夜、隣の部屋から双子の鳴き声が響いた。
ここに来てから始めてだった。少し様子を伺っていたが一向に泣き止む気配はない。
「どうした?」
部屋に入ると、ベットの上で龍聖が双子を両脇に抱え戸惑った様子であやしていた。
「わかんねー」
大きな瞳から大粒の涙を溢し、双子は泣いている。
竜臣はベットに座ると、翼を龍聖から引き離し、翼を胸に収めた。翼は竜臣にギュッとしがみついてくる。
「翼、なんで泣いてんだ?」
「ママ……」
翼のその言葉に、竜臣の心臓がチクリと痛む。
「ママがいいのか?」
やはり母親が恋しいのだろうか。
「怖い……」
「怖い?」
「多分、怖い夢でも見たんだろ」
龍聖が光の背中を撫でながら言った。
「光は翼の恐怖心を感じて、訳わかんなくて泣いてるんだと思う」
双子はよくお互いの感情に同調するのだと聞いた事がある。
「俺も今日はここで寝る」
「寝不足になるぞ」
「いいさ、別に」
翼と光を龍聖と自分の間に寝かせ、しゃくり上げている翼のお腹を撫でた。
しばらくすると、泣き疲れたのか双子は穏やかな寝息を立て始めた。
「もしかしたら、あの時の事思い出したのかもしれない……」
龍聖はぐっと涙を堪えるように、目を閉じている。
龍聖が翼の首を絞めた時の事を言っているのだろう。
「俺もこいつらくらいの時は、良く泣いてたよ。人肌が恋しくて」
そう言って、竜臣の手を握っている翼の手に唇を寄せた。
「だから、泣きたくなる気持ちはわかる」
そう話す竜臣の切なそうな顔を見つめた。
竜臣は目を瞑ると、そのまま眠りに落ちた。
竜臣の寝顔を見つめていた龍聖は、どうしようもなく竜臣に愛おしさを感じた。
無意識に、竜臣の額にキスを落としていた。
朝、千夏が子供たちを起こしそうと、龍聖の部屋の扉を開けた。見るとベッドには、龍聖の腕枕で寝ている竜臣。二人の顔の下には翼と光が二人に寄り添うよう眠っていた。
(まぁ、かわいい)
千夏は思わず携帯を取り出し、パシャリ、と写真を撮った。
学校では、相変わらず竜臣に関わろうとする者をいない。だが、傍らにはいつも龍聖がいた。その異様な光景に周囲は慣れてきたのか、目を向けられる事もなくなってきた。
龍聖はトイレに行くと竜臣に声をかけ、教室を出た。
トイレに入ると、続いて男子生徒が三人入ってきたのが分かった。用を足し、トイレを出ようとした時、
「おまえ、江藤の犬にでもなったの?」
一人がにやけた顔を浮かべている。龍聖はギロリとそう言い放った男子生徒を睨んだ。
「あいつの家にいるんだって?」
もうすでに龍聖が竜臣の家に居候している事は知られてしまっていたのは知っていた。
「だったら?」
「あれか、何でも言う事聞けば面倒みてやるとか言われた訳?」
「下の世話としてんの?おまえがあいつに挿れる方?それとも挿れらる方?」
クスクスと男子生徒は笑っている。
一瞬何の事を言っているのか理解できなかったが、その意味を把握すると、カッと頭に血が上った。
「どういう意味だ……」
「どういう意味って、セックスしてんだろ?おまえら?そういう関係なんだろ?」
龍聖はそう言った男子生徒の胸ぐらを掴んだ。胸ぐらを掴まれた男子生徒は、龍聖の眼光の鋭さに怯えた表情を浮かべている。
「そんなわけねーだろ!男同士で!」
龍聖は掴んだ胸ぐら荒々しく揺さぶると言った。
離せよ!両手で胸をドンっと押されると、
「男とだってできるんだぜ?それに、オレ知ってんだよ。あいつが昔、男と付き合ってたの」
「マジか⁈気持ちわりー!」
次の瞬間、龍聖はその男を殴りかかっていた。
「俺の悪口はいくらでも言えよ。だけど、あいつの悪口を言うのは絶対許さねえ」
そう言って一人の腹に何度も蹴りを入れた。
別の男の上に馬乗りになると、顔面に拳を叩き込んだ。男の顔は鼻血で真っ赤になるが、構わず何度も殴ると龍聖の拳は赤く染まり、顔には返り血が点々と散った。
もう一人の男の頭を掴むと、壁に思い切り顔面を叩きつけ、耳元に口を寄せると、
「次、そんなくだらねえ話し口にしたら殺すぞ……わかったかよ」
そう言って顔を壁に押し当てもう一度、壁に顔面を叩きつけた。
龍聖は凶暴な目を向けると、三人の男子生徒は怯えたように何度も頷いていた。
(あいつを侮辱する奴は絶対に許さねぇ……俺があいつを守るんだ)
この先も、竜臣にとって敵になる人間は自分が排除すべきなのだ。
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