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第10話
12月に入り、世間はクリスマスムードに浮かれている。
龍聖たちが竜臣の家に居候して、三ヶ月が経っていた。
「クリスマスかー。おまえチビたちになんかあげるの?」
「うーん、考え中。聞いたけど、千夏さんのオムライスって言われた」
そう言って、苦笑いを浮かべいる。
双子の翼と光は、思いのほか欲がなかった。それに龍聖は安堵していた。言えば何でも買ってもらえる今の環境に、慣れてしまわないか不安でいたのだが、要らぬ心配だったようだ。
竜臣は何でも買ってやってしまう。それはまるで、孫に何でも買え与えてしまう、おじいちゃんのようだった。双子たちは、物より食に対する欲が強いように龍聖は思えた。あの時、食べ物を満足に食べられないという環境が、今、そうさせているのかもしれない。
翼と光には忘れて欲しいと思う。特に、首を締めてしまった事を。きっと、5歳ならば記憶は残ってしまうかもしれない。トラウマにならない事を祈るだけだった。
そして龍聖は、絶対に忘れない事はできないだろう。
生きる希望を与えてくれた、竜臣は龍聖にとって弟と同じくらいに大事な存在になっていた。竜臣はきっと極道になるだろう。だったら、自分も同じ道を歩み、一生かけて竜臣を守る。それは、自分にとって、ごく自然な当たり前の事なのだと思っている。
「おっ、これなんてどうだ?」
商店街をブラブラと歩いていると、竜臣は自転車屋の補助輪付きの子供用自転車に目を奪われている。
「そんな、高い物いいって!」
「だって、普通の子どもならこのくらいあるだろ?」
「そうかもしんねーけど……」
「あいつらには、普通の子供と同じようにしてやりてーんだよ」
そう言って双子を思い浮かべいるのか、優しい笑みを溢しながら子供用の自転車を見つめている。
「住む所与えてもらってるだけで、オレたちは有難いんだよ」
「うるせーな、俺がしたいんだからいいだろ!」
竜臣は口を尖らせている。思わずその子供のような顔を見て、龍聖は笑ってしまった。
「おまえは何か欲しい物あるか?」
不意に竜臣に聞かれた。
「今、充分色々与えてもらってるから、思い浮かばないな。そういう竜臣は何かないのか?」
「うーん、ないな。一番欲しかった友達と家族は手に入ったから」
そう言って、ふわりと笑った。
「……っ」
その言葉に龍聖は鼻の奥がツンとした。それを誤魔化すように、龍聖は顔をマフラーに埋めた。
クリスマスは盛大に祝った。大きなクリスマスツリーを飾り、クリスマスケーキを食べた。
竜臣にしても龍聖にしても、こんな盛大にクリスマスをやったのは初めてだった。
一緒に住む若い衆たちも集めて大人数でパーティーをした。
双子たちは、沢山のプレゼントをもらい、竜臣からは案の定、補助輪付きの自転車をそれぞれもらっていた。
双子たちは早速中庭に出て、若い衆に支えられ自転車を嬉しそうに漕いでいる。
「また、こんな高い物……」
思わず龍聖は頭を抱える。
「喜んでんだから、いいじゃねーか」
隣で竜臣はタバコを燻らせている。目を細め、双子が嬉しそうに自転車に乗る姿を満足そうに見つめると、
「そうだ、俺からはこれ」
そう言って、竜臣はポケットから小さな袋を取り出した。手に取り中を見ると星型のピアスだった。
鈍く黒い光を放つ、スタッズピアスでシンプルなデザイン。
「穴、空いてないけど?」
「今から開けるんだよ。俺の部屋行ってて」
そう言われ、竜臣の部屋のソファに座り竜臣が来るのを待った。
正直、耳に穴など開けたくはない。だが、それが竜臣が望む事ならと、受け入れた。
竜臣がビニール袋を持って戻ってくると、龍聖の横に座り向き合う形になる。ビニール袋を徐に龍聖の左の耳たぶにあてた。
「冷てえ!」
「冷やして感覚無くして開けるんだよ。つっても、痛みはあるけどな」
ビニール袋の中は氷だった。
しばらくその体制で待つ。竜臣の耳に目を向けると、五つある一つが先程見せられた星のピアスと同じ物が右の耳たぶにしてあった。
次第に龍聖の耳たぶの感覚がなくなり始めた。
ガラステーブルに置かれたピアッサーを竜臣は手に取り、龍聖の耳たぶにあてた。
「開けるぞ」
バチン!と大きな音が龍聖の耳に響いた。痛みで思わず顔をしかめ、首に血が流れるのを感じた。
竜臣の目が首筋に流れる血をジッと見つめている。竜臣の右手が龍聖の頬に添えられ、左手で流星の顔を少し傾けてた。次の瞬間、竜臣の舌がその血を舐めとった。首筋の血をゆっくり舌先で舐め上げ、最後は耳たぶを口に含んだ。冷えて感覚のない耳たぶが、竜臣の口の中で溶かされるように、熱を持ち始めた。
ゾクゾクと龍聖の体が小さく震え、目を閉じた。ゆっくり目を開けると、目の前には顔を蒸気させた虚ろな目の竜臣。どちらともなくお互いの頬を両手を挟むと、二人は唇を重ねた。
何度も啄むキスを繰り返し、夢中で舌を絡ませた。
その時、部屋がノックされ二人は大きく肩を揺らした。
「坊ちゃん、龍聖くん、食事の用意できてますよ」
千夏の声が聞こえ、
「今、行く」
竜臣は何事もなかったように、部屋を出て行った。
龍聖は暫く頭を抱え、気持ちが落ち着くのを待ってから部屋を出た。
きっと竜臣にしてみれば、キスをしたかったからした、という事なのだろう。なぜ、したくなった理由など、竜臣には必要ないのだ。
15歳の子供とは思えない時折見せる竜臣の色気に、ふと理性を失いそうになる時がある。
竜臣とは兄弟という名の下に一緒にいる。ましてや、男同志。自分は同性愛者ではない自覚がある故に、違和感を覚えた。
それでも、龍聖の胸の奥にチロチロと小さな火が灯り初めている事に、龍聖自身もその時は気付いてはいなかった。
その感情に気付くのに、まだ龍聖は子供だった。
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