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第11話

龍聖は桐生に頼み、仕事を紹介してもらう事になった。一度、桐生と話す機会があり、今後の事を相談した際に仕事を紹介してくれると言ってくれ、それが竜臣の叔父である竜太が組長を務める江藤組がバックに付いているというキャバクラのボーイ兼用心棒の仕事だった。 竜臣は自分を買ったと言って借金をチャラにしてくれた。だが、200万もの借金をチャラにしてもらった上、金に不自由しない贅沢な生活を送るのがどうしても気が引けた。毎月少しずつ返していこうと思った。 それを竜臣に話すと案の定、機嫌を損ねた。 「でも、少なくとも200万の借金を返す終わるまでは、俺から離れられないって事だな」 そう言ってニヤリと笑ったのを思い出す。 借金が終わったところで、自分は竜臣と離れるつもりはない、そう龍聖が言うと竜臣は嬉しそうにフワリと笑った。 桐生と話をした時、今後どうするのか聞かれ迷う事なく、 「高校には行かず働こうと思います」 そう言った。 「坊ちゃんには言ったのか?」 「いえ、まだ……」 「おまえは成績も悪くないし、高校行ってもいいんじゃないか?」 「でも、そこまで面倒見てもらうのも……」 龍聖は一度目を伏せ、組んでいる自分の手を見つめると顔を上げ桐生を見た。 「竜臣は極道になるんですよね?」 「そうだろうな」 「俺はあいつに一生着いていくと決めました。だから、俺も極道になろうと思います」 そう言って、真っ直ぐ桐生を見つめた。 桐生はタバコに火を点けると、大きく一つ煙を吐いた。 「坊ちゃんはおそらく、後々藤神会を継ぐお人だ。そんな人の隣にいる奴が、中卒のチンピラ程度じゃ坊ちゃんに恥をかかせるだけだ」 その言葉にハッとして桐生を見ると、 「高校には行け。できれば坊ちゃんと同じ高校に。そんで、今から極道の世界学んでおけ。おまえにはその素質がありそうだと俺は思っている」 極道に素質などがあるのかは分からなかったが、極道の世界でのし上がって行くであろう竜臣の為に出来る事をするのが、江藤家への恩返しだと思った。 桐生の言葉に龍聖は黙って頭を下げた。 週末の金曜日と土曜日に、桐生に紹介してもらったキャバクラのバイトをこなしていた。年は18歳と偽っていた。元々、落ち着いた風貌と大人びた見た目、通常の中学生よりも育った体格で誰も龍聖が18歳だと信じて疑わなかった。 店長だけは全ての事情を知った上で雇ってくれた。 まだ、なかなか慣れず試行錯誤であったが、キャストや他のボーイたちの人柄に支えられ、なんとか仕事をこなしていた。 「龍聖、ゴミ出し頼む」 「はい」 先輩ボーイに言われ、龍聖はゴミを出すべくゴミ袋を抱え裏口を出た。 あまりの寒さに、一瞬身震いする。店の中は、半袖でいられる程の温度で、中と外の気温差に体が無意識に震えた。 ゴミを指定の場所に置き、ふと、通りに目を向けた。今日は土曜日で、街はだいぶ賑わっている様だった。 「竜臣?」 向かいのショットバーの店の前、数人の男女の若者がたむろしていた。その中に見慣れたアッシュグレーの髪。取り巻く仲間はどう見ても竜臣より年上で、20歳前後といったところか。 竜臣は友達はいないと言っていたが、遊ぶ仲間くらいはさすがにいるのだろう。 (そうだよな……俺だけって事、あるわけないんだよな) 竜臣はその中の一人の女の肩を抱くと、街の中に消えて行った。 その姿に、龍聖は虚しさとモヤモヤとした嫌な感情か湧いたのを感じた。 たった一度、キスをしたくらいで何かが変わるわけはない。 ただ、自分には竜臣しかいないのに、そう思うと少し悲しかった。 そんな感情が湧いた瞬間、龍聖は頭を振った。 (俺にはこんな感情は必要ない。俺はあいつを極道のトップにするんだ) そう気持ちを落ち着かせると、店へと戻る為、龍聖は踵返した。 (龍聖……) 女の肩を抱きながら、龍聖がバイトしている店を横目で見ると、黒髪の長身の男がゴミ出しの為け裏口にいるのが目に入り、それが龍聖だと遠目からでも分かった。 龍聖のバイトでの様子は、桐生を通じて聞いていた。 早速、用心棒としての仕事もこなしているという。 バイト2日目にして、柄の悪い若いグループの客が店で暴れた際、龍聖はその中のリーダー格の男を抑え込むと指の骨を2本折ったのだと聞いた。店長が、できるわけがないと高を括って冗談で、指の1本でもヘシ折っておけ、そう言われ素直に従ったのだと。顔色一つ変えず、何の躊躇いもなく人間の指の骨を折った龍聖に対し、店長はゾッとしたという。 桐生は困惑した顔で、とんでもないガキだ、と溢していたのを思い出す。 極道の息子である自分より先に、龍聖は着々と極道への道に踏み入れていると思った。それは全て自分の為だと容易に予想はつく。 竜臣はそんな龍聖を愛おしい思い、この先もずっと一緒にいられる事が堪らなく嬉しかった。

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