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第2話

『なあ、西田。事務所寄らずに俺の家に来いよ』  それは神谷との間に西田が交わした合言葉のようなものだった。神谷と西田は上司と部下という関係のほかに、性欲を発散する肉体関係もある。  もともと西田の性的志向はノーマルであり、過去に複数の女性と付き合った経験もある。神谷と出会って十数年経つが、彼の性的志向を知ったのはつい最近の話だ。  ささいなことがきっかけであったが、端的に言えば西田の性癖を神谷に見抜かれてしまったため、それからというもの西田は神谷の性欲発散機になりつつあるのだ。 「……西田」 「はい?」 「ゆるい。肩」 「結び直しますので動かないでくださいね」 「俺が暴れて興奮するのはお前だろう?」  神谷がにたりと笑ったので、西田は戒めとばかりにゆるんだ麻縄をきつく縛り、やや自由をもたせていた両腕も背後に回して拘束した。 「俺はな……お前のそういうところが気に入っている。生真面目で、仏頂面で、高崎の野郎よりも無表情で何考えてんのかわかんねえ分、ヤルときはヤルよなあ」 「私の前でほかの男の名を出すのやめてください」  西田は神谷を自らの膝に寝かせ、縄目をつぅーっと意味深な手つきでなでた。 「ああ、ジェラシー? 妬いてるのか、西田?」 「黙って」  西田は神谷に覆いかぶさるように上体を倒し、彼の言葉を奪い取るように熱く口づけた。 毒蛇のようだ、と西田を呼称する者もいるようだが、それは正しいだろう。西田は執拗なまでの舌遣いで上司である神谷の口腔内を気が済むまで味わったのだ。

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