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第3話

「調子に乗るんじゃねえぞ……」  神谷は息苦しいのか顔を真っ赤に染めていたが、言葉のわりに口元は怒っていなかった。西田好みの薄い唇がにたにたと吊り上がる。 「その程度でこの俺をイかせることができると思ってんのか?」 「いいえ、自制しているだけです。それよりも縛られているあなたに主導権はない。このゲーム、私の勝ちですね」 「俺がお前ごときでイくわけねえだろう」 「あなたの良いところ、私なりに学んだつもりなのですが」  西田は神谷の胸部を走る麻縄をつまみ弦楽器のように弾いた。 「っん、ぁ……っつ」 「あなたは身体に触れなくとも縛られているという事実だけで射精する変態です。わざわざ脱がせる必要も肌に触れる必要もない。あなたがこんなに淫乱だなんて、組の人間が知ったらどうするのでしょうね」 「馬鹿だなあ、西田。俺が乱れるのはお前とヤるときだけだ」 「いつまでその余裕を保っていられますかね」  西田は片方の指を神谷にしゃぶらせながら、もう片方の指でスーツの上から胸の突起を探り当てる。乳輪をかすめるたびに、神谷は鼻にかかるような吐息をもらした。 「焦らすなよ」 「愉しんでいるだけです」 「性格悪いなあ、お前」 「あなたほど良い意味でも悪い意味でも正直な人間のほうが真っ当だと思いますが」 「うるせえ。口動かすヒマがあるなら、手ぇ動かせよ」 「少し黙ってください。塞ぎますよ」 「おい、口は要らねえ手を動かせって――っ」  神谷は嫌そうな顔をしたが、西田はそれを見ないようにして再び口づけた。神谷の口腔内は芳醇な味がした。アキのバーで頼んだ酒の味だろうか。神谷は何を飲んでいたのだろうか。 酒が得意でない西田は飲みの席に立ち会う機会を控え、たいていは店の前で待っていることが多い。西田は神谷が酔った姿を見たことがなかった。  ――この人を酔わせたらどうなってしまうのだろう。  神谷の唇を味わいながら、西田は彼のブラックスーツの下に隠された張りのある肢体を想像した。  見たい。この手で触れて、蕩けるほど乱してあげたい。西田ののどがごくりと鳴る。  だが次の瞬間、西田は痛みのあまり低くうなった。 「変態」

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