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第2話
「父さん。ソレ、壊れたら使い道ないですし、そろそろ終わりにしたらいかがですか」
愛翔の声が聞こえなくなったころ、兄さんは立ち上がって父さんの傍へと向かった。よく似た美しい顔が二つ、虫けらでも見るかのように愛翔を見下ろす。
「由紀人。あとはお前が躾しておきなさい」
「はい、父さん」
酷薄な笑みを浮かべた兄さんは愛翔の腕を乱暴に掴むと、四肢に力の入らない弟を引き摺って歩き出した。愛翔の爪先が絨毯に引っ掛かったのを見て、あ、と声を漏らしてしまい、慌てて口を噤んだが遅かった。
「何か言いたいことでもあるの、直比古。――お前も来なさい」
「でも……」
「兄の言うことに逆らうの?」
「……わかりました」
運ばれている間、愛翔の虚ろな視線が俺をじっと捉えていたような気がした。
愛翔に宛がわれている部屋に着くなり、兄さんは愛翔をベッドに投げて、ズボンを脱いだ。アルファらしい怒張した大きなペニスが現れる。長大なそれに俺は思わず目を瞠り、身震いした。
「愛翔。脱いで」
「あ……や……」
「早く。脱いで」
乾いた音が一つ。愛翔は打たれた頬を押さえて涙を流した。
「直兄さま……、たすけて……」
か細い声に手を伸ばしかけるが、俺と愛翔の間に兄さんが割り込んだ。兄さんはそのままベッドに乗り上げて、愛翔のズボンを強引に脚から引き抜く。
「まーなーとー? 往生際が悪い子だなあ。オメガのお前は俺たちアルファの奴隷になっていればいいんだよ。なあ、直比古?」
振り向いた兄さんの顔は、完全に雄の顔で。
そのあとは、兄さんが愛翔の尻に腰を打ち付ける音と、愛翔の悲鳴が続いた。
「うちに来てっ、まだ三か月なのに、くっ、もう兄弟気取りか? 余所の女の血が入ってるくせに……っ」
「あっ……いやぁ、んっ、ん、あぁっ!」
「媚びた声で、直兄さまなんて、直比古を呼ぶのはっ、やめろっ……! 気色悪い……っ!」
「ひぁっ……! あ、あ、あぁンッ……!」
もうやめてくれ。
俺はその光景を見たくないのに、兄さんを止めることも、部屋から出ることもできず、部屋の隅に座り込んで小さくなって目を瞑り耳を塞いでいた。
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