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第4話
「では行ってくる。しばらくの間、留守を頼むぞ、直比古。お前はアルファにしては性格が優しすぎるからな。しばらくアレと二人だし、気を引き締めて生活するんだぞ」
「はい、父さん。気を付けて」
母さんは友人と海外旅行中で、今この広い家には俺と愛翔しかいない。こんな時に限って、大学は秋休暇で一週間のお休みだ。気軽に遊びに誘える友人はいないし、勉強をして気を紛らわせようと机に向かったが、兄さんに抱かれる愛翔の姿を思い出してしまって、上手く集中できなかった。
溜息を吐いて窓の外の晴天を睨む。
あれからまた愛翔は、三件の縁談を断られ、父に折檻され、兄に犯されて部屋に引きこもっていた。
縁談なんて言えば聞こえはいいが、実際は三十も四十も離れたアルファとの愛人契約だ。要するに、父さんがコネクションを作るための人身御供。
社会的地位が低いオメガは金で売買されることがしばしばある。もちろん、大っぴらにはされていないが。
うちに引き取られてから半年、愛翔は日に日に元気が無くなっていった。
そして、時々、俺の部屋に忍び込んでくるようになった。
熱を孕んだ大きな目で、俺にこう言ってくるのだ。
「直兄さま、お願いです。僕を抱いてください。そして一緒にこの家から逃げましょう」
「ま、愛翔!? どうして……!?」
背後から声を掛けられて飛び上がった。振り向けば、フリルのついたベビードールを身に着けた愛翔が立っていた。鍵を閉めていたはずなのに、扉は薄く開いている。
「勝手に入ってくるな!」
「ねえ、直兄さま、僕、可愛いでしょう?」
愛翔はフリルを揺らして、くるりとその場で一回転した。透け感のあるベビードールの下には、真っ赤なレースのビキニを穿いていた。
じりじりと迫る愛翔からはオメガフェロモンが漏れ出ていた。アルファだけでなくベータすらも虜にして性的に誘う、蠱惑的な香り。
慌てて鼻と口を手で覆えば、愛翔は妖艶に微笑んだ。
「いい匂いでしょう、直兄さま。僕を抱きたくなってきたんじゃないですか?」
ぺろりと口を開けた愛翔の舌の上には、ピンク色の錠剤が一つ載っていた。
「発情、促進剤……」
「僕もさっき一粒飲んだんです。直兄さまも、これを飲んでください」
「や、やめろ……!」
椅子から立ち上がろうとするが、肩を押されて再び椅子へと戻った。
愛翔はお願い抱いて、と俺の膝の上に乗り上げてくる。オメガなのに力が強く、捕まえられた腕を振り払うことができなかった。いや、愛翔の力が強いわけではない。俺がオメガフェロモンのせいで骨抜きにされているのだ。
柔らかい髪の毛が俺の頬を擽る。愛翔のもう一方の手が俺の顎を掴み、親指を口に突っ込んできた。
「ぐ、うう……」
「直兄さま。欲望に素直になってください。ね、気持ちいいことしましょ?」
開いた口の隙間から舌を捻じ込まれて、薬を落とされた。
吐き出そうとしたが、愛翔は俺に口づけて口腔内を舌でくちゅくちゅと弄り、唾液を送り込んできた。
次から次へと唾液を送られ、とうとう我慢しきれずに嚥下してしまう。
「んっ……!」
「これでもうすぐ獣みたいに愛し合えますね。直兄さま……」
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