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第5話

「やめろ……!」  もう一度キスをしかけてきた愛翔の顔を手で払い除けた。 「痛……酷い、直兄さま」 「あ……」  愛翔の白くて滑らかな頬に赤い痕がついていた。  目を潤ませた愛翔ははらはらと涙を流し、俺の胸に顔を埋めてシャツを濡らした。  すっぽりと腕に収まってしまう、華奢な身体。  首筋からは、いつかのアップルパイよりも甘ったるい匂いがしている。 「何でですか? 僕、もうこの家にいるのは限界です……、直兄さまと一緒に逃げたいんです。駄目、ですか……?」  二人で生きていきたいんです、と願う愛翔の声は切なくて、胸が詰まった。  普段は首輪で隠されている傷ひとつない白いうなじが、すぐ目の前にある。 「……お前は俺の弟だ、そんなの、駄目だろ……何考えてるんだよ……」  血の繋がった兄さんに抱かれていた、美しいオメガ。  背をしならせて嬌声を上げ、兄さんの精を受けていたオメガ。  アルファと『つがい』という特別な関係になれる、オメガ。 「何って……僕は今、直兄さまのことしか、考えていません。優しくて素敵な貴方に抱かれることだけ……」   薄桃色の唇がそっと囁く。   兄さんに良く似た、美しい唇が。 「直兄さまの、つがいにしてください」  俺とは何もかも違う、可愛らしい容姿の弟。  少し前まで、見ず知らずの他人だった、弟。 「だめ、だ……、できない」 「兄弟だからですか? 僕は血の繋がりなんて気にしません。僕は変態親父の愛人になんてなりたくないです。直兄さまだって、僕のこと可哀想だと思っているでしょう?」 「それは……」 「それに。そろそろ薬が効いてきてシたくなってきたでしょう? ほら、ペニスだって……」  触るな、と口を開く前に、薄笑いを浮かべた愛翔が俺の股間に視線を落とした。

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