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第6話
俺の股間を見た愛翔は首を傾げた。
「なんで……? 全然勃起してない。ED? 発情促進剤飲んだアルファが勃たないなんて、あるわけ――」
瞬きをして目を開けた次の瞬間。愛翔の瞳には、侮蔑の色がありありと浮かび、庇護欲をそそる可愛らしいオメガの仮面は脱ぎ捨てられていた。
「まさか。アンタってベータ?」
「……」
「ハハ、何だよ。マジでベータなの?」
俺は図星を指されて狼狽えた。
愛翔は狂ったように手を叩きながらひとしきり笑った後、柔らかで光輝く髪を雑にかき上げて、目を細めた。
その顔は兄さんそっくりだった。
そして、どこに隠し持っていたのか、愛翔は発情抑制剤の注射を自分の腕に打った。濃厚に漂っていたオメガフェロモンが急速に消えていき、フェロモンのせいでぼんやりしていた頭も明瞭になっていった。
「あーあ、媚び売って損した。部屋の鍵盗んでコピったりしてメンドーだったのに。……あれ、でもおかしいな。志良堂の父と母は二人ともアルファだろ? それなのに、なんでベータが産まれてるわけ?」
「それ、は……」
愛翔は俺の膝の上から下りると、クローゼットを勝手に開けてシャツとズボンを取り出した。
アルファ同士のカップルからはアルファしか産まれないのにおかしいね、と歌うように嘲笑い、ベビードールを脱ぎ捨ててサイズの合わない俺の服を着始める。
「ぶは、彼シャツみたいでウケる。あーそっか。アンタも、俺と同じであのクソ親父の不倫相手の子なんだ」
余った袖から指先だけ出して俺を指差し、顔を覗き込んできた。金縛りにあったように椅子から動くことが出来なかった俺は、ぎこちなく顔を背けた。
「それにしては、あのクソ親父には全然似てないよなぁ。母親の方には似てるんだけど――って、俺、分かっちゃったかも!」
下品な笑いとともに、手を差し出された。何、と視線で問えば、お金ちょうだい、と返ってきた。
「金くれよ。俺、ここに来てから自由になる金がなくてさあ」
「無理だ、父さんからきつく言われてる……」
「ふうん? バラされていいの? アンタが志良堂 宗親 と血が繋がってないって。ていうか、宗親パパはアンタがベータってこととか、本当の息子じゃないってこと、知ってんの? あの人、そういうの許さなそうだけど」
黙り込む俺に、愛翔はもう一度ふうん、と嘲笑した。自分が言ったことが事実なのだと確信したのだろう。
愛翔の言う通り、俺が母さんの不倫の末に産まれた子であることを、父さんは知らない。戸籍上も、ベータではなくアルファだと偽装してある。第二性の検査の際、母の友人の医者――というか母の長年の不倫相手であり、現在の旅行の同伴者でもある人物 ――が診断書を改ざんしている。
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