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第7話

「アンタが金くれないって言うなら、俺の存在含めて週刊誌にでも売ろうかなー。あの大富豪でベストパートナー賞にも選ばれた事のある志良堂夫妻のドロ沼不倫と子ども事情、なんて見出し、面白くない?」 「……わかった。いくらだ」 「とりあえず十万。そのくらいならすぐ出せるでしょ?」  机の上に置いてあった財布から一万円札を全て抜き出し、愛翔に渡した。 「えー、これだけ? 五万しかないじゃん」 「今はこれしかない」  短く舌打ちしたものの、愛翔は雑に半分に折った札をズボンのポケットにねじ込んだ。 「あーあ。これなら由紀兄さまの方を狙えばよかった」 「は……?」 「え、何。アンタ、俺が本気でアンタに惚れてるとでも思ってたわけ?」  何がそんなに面白いのか、愛翔は吹き出してケラケラと笑い、俺の方に一歩足を踏み出した。 「んなわけないじゃん。オメガの俺が楽に生きていくための芝居だよ」  美しい顔を歪め、黙っていれば上品な薄桃色の唇を醜く開き、「アンタなんか大嫌い」と吐き捨て、回れ右して俺に背中を向けた。 「アンタの方がチョロそうだったからさぁ。失敗したー。あ、でもあの人、セックスは乱暴だけど抱いてくれるし、実は脈アリだったりして。奥さんが妊娠中って溜まるみたいだし、今度発情セックス仕掛けようかな。うなじ噛まれてつがいにされちゃうかも。うふふ」 「愛翔、お前、今なんて」 「え? なに……ぐぇっ!!」  俺の手は無意識に、振り向いた愛翔の首を鷲掴みにしていた。細くて折れそうな白い首に爪がめり込む。 「今。なんて言った」 「ぐ、ぐるじ……!」  微かに隆起した喉仏が、ごり、と俺の手の中で音を立てた。 「兄さんに何度か抱かれただけで、思い上がるなよ! あの聡明で高尚で穏やかで優しくて美しくて包容力があって意志が強くて器が大きくて度胸があって器用で勉強も運動も昔から一番で非の打ちどころがない天使のような兄さんが、お前なんかを……お前なんかを……!」   細い指先が俺の手の甲を引っ掻き、細い脚が俺の脛を蹴っている。  華奢で美しくて儚くて、どこもかしこも俺とは似ていない。  細くて、簡単に折れそうな、白い、白い、首。  白いはずなのに、真っ赤に染まっている。  首も、この厭らしいオメガの顔も、部屋の壁も、カーペットも。  何もかもが真っ赤に燃えていた。

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