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第8話
真っ赤な部屋はいつの間にか、いつも通りの俺の部屋へと戻っていた。
ただ、足元に転がる、動かない弟以外は。
扉を叩く音がし、そちらへと視線を向けた。開いた木製の扉の隙間から、兄さんが立っているのが見えた。
「……兄さん、なんで」
「ただいま、直比古。会社の用事でこの近くに来ていたから、ついでに寄ってみたんだ。お土産にケーキ買ってきたのだけど、食べる?」
兄さんのほのぼのとした声を聞き、ようやく自分が何をしてしまったのかを認識した。
絞めた首の感触が蘇り、手が震えだす。
「兄さん……ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい」
「どうしたの、直比古」
部屋に入ってきた兄さんは、床に落ちている弟だったものを一瞥し、「ああ、やっちゃったのか」と冷淡な声を出した。その声も、冷たい視線も、俺の心に深く突き刺さる。
「ご、ごめんなさい! あああ、嫌いにならないで、兄さん、お、俺、兄さんに嫌われたら、生きていけない!」
完璧なスタイルの、兄さんの長い脚に縋り付いた。
ああ、兄さんの匂い。兄さんの温もり。
軟弱な精神を持った俺とは違った、素晴らしい人。
「落ち着いて、直比古。今回はどうしてこうなったの?」
「だっ、だって、こいつ、兄さんを、兄さんのこと……だ、抱かれたからって、こ、こ、恋人ヅラして、つがいになれるとか、変なこと言ったからっ」
「そう」
取り乱す俺とは違い、兄さんはいつだって冷静だ。
神々しい笑みを浮かべてしゃがんだ兄さんの優美な手が、俺の頭をゆっくりと撫でた。
兄さんの手はいつも優しくて温かくて、安心する。一撫でごとに、強張っていた俺の身体にゆっくりと血が巡っていく。
その手が、兄さんのズボンを掴んでいた俺の手をそっと取った。
「手、傷が沢山ついているよ。手当しなきゃ」
「あ……でも」
「大丈夫だよ。直比古は何も心配しないで。コレの片付けは俺がやっておくから。いつもそうだろう?」
でも、と微笑みを崩さないまま、兄さんが言った。
「ソレは直比古のものじゃなかったよね? 人のものを壊す子はどんな子かな?」
「あ……悪い、子、です」
「うん、そうだね。悪い子にはお仕置きが必要だね。おいで、直比古」
兄さんの言葉に、ずくんと股間に熱が集まった。それに気づいた兄さんは鈴が転がるような声でクスクスと笑う。
「喜んでは駄目だよ、直比古。これはお仕置きなんだから」
「はい……ごめんなさい」
兄さんは俺を立たせ、首筋に顔を寄せた。兄さんに匂いを嗅がれるだけで、俺のペニスは暴発しそうになってしまう。膨張しようとするペニスがズボンの中でギリギリと痛んだ。
「汚らわしいオメガの匂いがついてしまっているから、まずはシャワーを浴びてきなさい。俺はここで待っているから」
「……はい、兄さん」
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