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第9話
身体中を念入りに洗い上げ、部屋に戻った時にはもう、あのオメガの姿はなかった。
部屋にいるのは、椅子に座って外を眺める美しい兄さんだけ。
切り取って絵画にしておきたいと見惚れてしまった。
「おかえり、直比古。うん、いい匂いだ。おいで。さあ、手を見せて」
椅子に座った兄さんの前に膝立ちし、両手を差し出した。
俺の手の傷に一枚一枚絆創膏を貼り、痛いの痛いの飛んでけなんて言ってお茶目に笑う兄さん。
「さあ、直比古。手当ては終わったし、お仕置きの時間だよ」
「はい……兄さん」
「直比古。脱いで」
「はい」
立ち上がって腰紐を解き、身に着けていたガウンを床に落とすと、兄さんは口端を吊り上げた。
兄さんの目の前には、兄さんに装着させられた金属製のペニスケージ――いわゆる男性用の貞操帯に入った、俺の粗末なペニスがある。勃起したくてもできず、赤黒くなったそこはずっと痛みを抱えていた。
「玉がパンパンになっているね。外してほしい?」
「はい……!」
「そう。でも、直比古は人のものを壊す悪い子だから、今日は鍵を開けてやれないな」
貞操帯についている小さな南京錠を指で弾かれた。刺激が全体に伝わり、ペニスに耐えがたい痛みが走ってうめき声を上げた。
「痛い? でも、直比古が悪い子だからいけないんだからね? 悪い子だから俺がお仕置きしなきゃならないんだよ?」
「はい……」
俺は素直に頷いた。優しくされて勘違いしそうになる俺に気づいてか、兄さんが俺を抱くのはあくまでもお仕置きのためなのだと念を押され、胸にも痛みが走る。
俺は物心ついた頃から、兄さんを敬愛している。
俺にとっては兄さんがこの世の全てだった。
多忙な両親に代わって俺の面倒を見てくれた兄さん。
遊びも勉強も兄さんが教えてくれた。
お風呂の入り方も、洋服の着方も。マナーも、社会常識も。
俺が本当は母親の不倫相手の子であることも、本当の性別がベータであることも、兄さんが教えてくれた。
精通がきたとき、パンツを洗って男の身体の仕組みを教えてくれたのも。
ベータもオメガみたいに尻で気持ちよくなれることを教えてくれたのも、兄さんだ。
痛みで涙目の俺をベッドまで導いた兄さんは、服を脱いで一緒にベッドに上がってきた。
「直比古。脚開いて」
「はい……」
M字に開脚して、固く閉じている蕾を兄さんに見せた。兄さんは俺のそこをじっくり観察し、指先で探るようにチェックしてから、ローションを振りかけた。
すらりと伸びた美しい指が、俺のナカへと入ってくる。最初は一本、ぬちぬちとゆっくりと出し入れされ、ローションが内壁に塗り込められた。
続いて二本、三本とたっぷり時間をかけて焦らされながら拡げられていくが、兄さんの指は器用に前立腺を避けており、決定的な刺激は与えられずにもどかしさが募っていく。
それでも、ぐちゅぐちゅと絶え間なく聞こえてくる卑猥な音は兄さんが出しているのだと、兄さんが俺のナカにいるのだと、そう思うだけで高揚し、勃起できないペニスはさらに痛みを増していった。
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